#10 異世界でお出かけ

「ああ、そうだ。パティさんを一度、都市部の病院で検査してもらった方がいいと思います」


 翌朝。食事中にレンさんがそんなことを言い出した。


「今のところ外見に異常はないですし精神についても転生が発覚した、というだけです。

 ですが一応それ以外に問題がないかを診てもらった方が……」


 『転生が発覚した』っていうのがなんか引っかかる。――まあ実際、今のところ、それに特に問題があるわけじゃあないので流しておこう。


 レンさんが俺を見た。

 俺はコボルドに襲われてゴミ捨て場に寝転がっていたんだから、レンさんの言うことは当然だと思う。俺も頷いた。


 で、母さんはというと……難しい顔をして悩んでいた。


「うーん、そうねえ。解ってはいるんだけれど……」


 母さんが悩む理由がパティの記憶の中にないかと探ってみる。

 ――ああ、そうか。今日、明日は学会関連か。


「いいわよ、母さんはお仕事を頑張って来て。そっちも大事なんだから。

 私の方はレンさんに連れて行ってもらうわ」


 ――悩む母さんに、そう提案してみた。


「いいわねえ。じゃあお願いしようかしら」

「え、僕にですか!?」


 ……提案者が責任もって連れていけよ、という目線でレンさんを見た。――その目線は届いていないようだったが。


「あら、先約があったのかしら?」

「いや、大丈夫です。でもいいんですか、僕で?」

「いいのよ。昨日もよくお仕事してくれたし、お得意様になろうっていう位、信用しているから」

「分かりました。お引き受けします」


 商談成立。ということで俺はレンさんと一緒に都市部とやらに出かけることになった。




 森を出て、都市部に行く。それも魔王やらなんやらがかなり昔の話となった世界で、だ。

 パティとしては普通のことでも、俺にとっては初めてのこと。正直、ちょっとワクワクしている。まるで物語終了後のその後の世界を覗くみたいだから。



 歩いて森の出口に近づくと、そこに森を警備する2人の兵士の姿があった。


「御苦労様です」


 レンさんがそう言って頭を下げると、2人も「ご苦労さま」と返した。


「パティさん、御無事で何よりです」


 兵士の一人が俺にそう言ってきたけれど、俺はどう返していいのか分からないから作り笑顔とお辞儀だけで返した。


「ところでレンさん。パティさんをどちらに?」

「これから彼女を病院に連れて行って、異常がないかを確かめてもらうんです。

 ――ああ、僕のフローター、出してもらえますか?」

「いいですよ。パティさんの分は……大丈夫ですか?」

「パティ?」


 兵士が眉をひそめて俺の方を見たので、レンさんも俺の方を振り返った。

 ――きっと彼女は、『フローター』という知らない単語が出てきて呆けたような顔をした俺の顔を目にしたことだろう。

 レンは察してくれたようだ。


「……いいですよ、僕のだけで。彼女の体調が良くないようだから、病院へ行くんですし」

「そうですね。それにコボルドにも襲われたんならフローターに単身で乗るのは心配です。ご無事であることをお祈りします」

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