#8 記憶の整理
浴室に入り、そこにあった鏡で今世の自分の姿を、確認するつもりで見てみた。
鏡の向こうで俺と向き合い立っていたのは、長すぎず小さすぎずのサイドテールをした、やや明るいブラウンの髪の女の子だ。
……多分もっと上手い言い方があるんだろうが、語彙力が無い俺にはそれ以上は『可愛い』ぐらいしか言い様がなかった。
(自分の感覚で)昼にはまだ男だった俺には、女の子のオシャレというものも、よく分からない。
(可愛いなあ……)
ともかく、前世の記憶(と人格?)に目覚めてから初めて目にする自分の姿を見た感想は、その一言に尽きる。
これが今の自分だということにドキドキする。
――と同時に切なさも覚えた。
ゲームに例えると、主人公選択の時にだ。
主人公になりきるためプレイヤーである自分と同性である男を選んだはいい。だが、女主人公に一目惚れしてしまい、その女主人公が男主人公ルートでは出てこず、どうして選ばなかった方をNPCにしなかったとゲーム制作陣を恨みたくなるような、そんな感覚。
……まあ『転生』ではなく『転移』したとして、自分とは別人のパティと出会えたとしてもだ。男だった時の俺に彼女を攻略できる可能性なんて限りなくゼロに近いだろう。だから、これはこれでいいんだ。
そんなイラナイ切なさも同時に覚えた。
ああもう、しんみりしすぎだ!
気持ちを切り替えようと頭を振った。考える内容を切り替える。
とりあえず、だ。
転生からまだ半日どころか数時間くらいしか経っていないが、今、俺が持っている情報を整理してみよう。
まず、俺はこの世界に転生した。
この世界では俺は女の子。名前は〈ヘパティカ=プリムラ〉。歳は17ぐらい、じゃあないだろうか。どうも女子校に通っているらしいが……その辺、記憶がまだ曖昧だ。後で身分証か何かを見つけて確認しておこう。
転生してきたこの世界だが――レンさんとコボルドとの戦闘を見る限り、まず
日常、というか、最低でもここのように魔物がいるところでの武器の携行は許されているようだ。
その、レンさんの使った武器は
同じ様な物でスマホのような、映像を映したり通話が出来たりする板も持っていた。こっちはひょっとしたらパティも持っている可能性がある。後で部屋を探してみよう。
…………。
他、気になることは考えれば考えるほど出てくる。俺の記憶が蘇る前のパティの記憶が思い出せればいいんだが、今の所じりじりとしか蘇ってこない。
いっそのこと、誰かにそれとなく聞いてみた方がいいんじゃあないだろうか。
――いや、無理かもしれない。
まず母さんに心配はかけられない。ただでさえ森で危うい目にあった俺に、あんな強烈なハグをしてくるほど心配してくれていたんだ。
なのに「あなたの娘である私は、実は転生者です。そして今、人格は転生前の俺になってます」とか言えるわけないだろう。
となると、俺が転生者だと知っているレンさんに話を聞くか。
俺も彼女に〈エトランゼ〉とか聞いておきたいことがあ――
――あぁ! ダメだ、さっきのことがあって聞き辛い!
ちゃんと謝ったし、レンさんも「気にしないで」って言ってくれたから問題ないだろうに!
転生しても前世での記憶と一緒に軟弱な俺の人格まで蘇ってきたのは手痛い!
俺は利き腕で頭を抱えた。そして自分自身を抱きしめるように、もう片方の腕で体を包んだ。
……すっごく柔らかい。ぶよぶよじゃない。パティはそこそこに筋肉があるにも関わらず、すべすべの肌と適度な柔らかさの肉質を持っていた。
なんだろう、前のパティに安心させられている気分になった。
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