#7 転性の困惑

 ――あれから。

 俺は部屋に戻ってきて、これ以上あまり動かずにじっと待っていることにした。


『ラッキースケベ』

 第三者として見る分にはいいが、当事者になると、こんなにも小っ恥ずかしいものだとは。


 しかも相手は血が繋がってない。その上、今夜一晩だけとはいえ寝食を共にする女の子だ。気まずいこと、この上ない。


 …………。


 いや、今の俺も女だ。同性だからいいのか。


 いやいや、人にはプライバシーってものがあってなあ、云々。


 いやいやいや……。



 そうやって独り考え事をしながら悶々としている所へ、ドアをガチャリと開けて、しかし涼しい顔でレンさんが入ってきた。


「パティさん、お風呂空いたよ」

「ひゃい!」


 いきなりだったから驚いて変な声が出てしまった。


 レンさんの方はというと、脱衣所のことを気にもしていないのか相も変わらず落ち着いた顔をしていた。


 ――あれか? やっぱり俺が気にしすぎか?

 相手が気にしないんなら、俺も気にしないでおこう。


「……さっきはゴメンなさい」


 それでもレンさんの脇を通る時に、もう一度だけ小さな声で謝っておいた。


「うん、いいよ。気にしないで」


 レンさんは優しい声で応えてくれた。




 脱衣所に行って、服を脱ぐ。


 ……ゴミ捨て場で自分の体を触った時も思ったが、明るいところで落ち着いて確認するともっとよく分かる。

 ――何だ、この白い柔肌。女の子の肌って、皆こんななのか? 手すら握ったことのない俺には新鮮だ。

 そして体を見下ろすと……。ゴクリと唾を飲んだ。


 ……いやいやいや、これ、俺の体だから。自分の体に欲情するとか、変態か?


 自分に言い聞かせて無理矢理落ち着いて、そして気づいた。

 ――俺は今ブラをしている。うん、女の子だから当然だ。

 問題はこいつの外し方だ。

 んじゃあなくてということぐらいは俺も知っている。

 ……知っているだけだ、意外と手こずる――と思っていたら、あっさりと外せた。

 あれか? 俺の記憶と人格が蘇る前のパティの記憶のおかげか?


 どうもまだ、自分の感覚がパティと合致していなくて変な感じだ。

 アニメやマンガとかの、俺と同じく異性に転生している奴らは、作中で語られないところで俺と同じ体験をしているんだろうか?


 考えながら浴室に入った。


 ――そのせいで(おかげで?)自分の体が今どうなっているのかなんて、忘れてしまっていた。

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