#5 襲撃・3

 レンとコボルドの戦いが始まった。

 前世でも今世でも生まれて初めて生で目にする実戦と、見事としか言いようのないレンの剣技に見とれていて気がつかなかった。

 やぶに隠れて、背後から俺を狙っていた4体目のコボルドの存在に!



「ひッ!?」


 コボルドの存在に気づいて悲鳴をあげ、逃げようとする。

 が、間に合いそうにない、捕まりそうになる!


 そこに高速で光弾が飛んできた!

 逃げるために身を翻そうとしていた俺の脇を通り、光弾はコボルドへと向かった。


 見事命中!

 「グフォッ!」と当たった場所を抑えるコボルド。


 レンの方を見ると、銃を撃ったわけでないようだった。

 コボルドに対して手のひらを向けていた。どうやら魔法が何かをこっちに放ったようだ。


 その様子を見てコボルドたちは

「ザゾゴメズッキダッ!」

 と意味の分からない言葉を放って逃げ出した!



 けれどレンは動かない。コボルドたちを追いかけようとしないで、他にもう危険な存在がいないかを探すように周囲を確認していた。


「あいつらは追わないの?」

「今は君の保護が優先だからね」


 剣を収めながら淡々と言い返してきた。


「そもそも、あれだけの実力があるんなら、モンスターぐらい斬りすてれば良かったでしょうに」

「――魔物モンスターが、魔王やら何やらの下で暴れていた大昔とは違うんだよ。

 正当防衛上やむを得ない場合はともかく、基本的に特定の魔物は殺すことは許されない。

 特に亜人型の魔物は、多少の問題はありながらも共存可能だと、今では証明されているんだ。だから、そういう決まりになっている。

 ――君の前世ではどうだったか知らないけれど」


「えっ!?」


 『魔王がいたのは大昔』とか『モンスターを簡単に殺してはいけない』的なルールがあるのも驚きだったが、レンが、俺が転生者だということを見抜いていたのも驚きだった。

 俺は1度も『自分は転生者だ』なんて言ってないはずだが。


「どうしてわかっ――」

「話は帰ってからね。

 この森には今のような魔物モンスターが沢山いて危険だ。

 君が魔除けを失くしてしまっている今は、安全な君の家に帰るのが先だよ」


 そう言ってレンは歩き出した。


 周囲の森からは、狼やら鳥やら野生の動物の声が聞こえてきた。

 ――危険は魔物ばかりじゃない。ここはレンの言うことに従って家へと向かうことにした。




 レンに連れてこられた我が家は、コテージと言うには少し大きな小屋のようだった。

 歩いているうちに蘇ってきたパティの記憶通りだった。


 そしてもう一つ思い出した。


「――そういえば母さんが『今夜はビーフシチューだ』って言ってたっけ」



 そんな俺を見ながら、レンは再びスマホ状の板のようなものを使い、今度は誰かと連絡を取っていた。


「――夜……、気を失っていたヘパティカ=プリムラ嬢を保護しました。外傷等はありません。が――」


 さっきレンは、ちらっと俺が転生者であることを見抜いていたようなことを言っていた。

 けれど同時に、俺がパティ本人だということも疑っていないようだ。


「――ええ、周辺の警戒と捜索は念の為引き続きお願いします。周辺にコボルド達も彷徨うろついていました」


 そう言ってレンは会話を切った。


「私がニセモノとは疑わないのね」


 そこで、レンに自分を疑わない理由を直接、聞いてみた。


 レンにどうやら俺が『転生者』だということを知られた後でも、女言葉はやめない。

 男が女に転生したとまではバレていないかもしれないし、周囲のどこに居るかもわからないレン以外の人間にまで俺の素性をバラす必要はないと思ったからだ。


「決して多くない〈エトランゼ〉のほとんどが、自分が〈エトランゼ〉と知らず過ごしている人だからね」

「――〈エトランゼ〉?」

「……その説明も後からしてあげる。


 失礼だけれど帰り道を歩いている途中、こっそり魔法で本人確認をさせてもらった。――君はきっとパティ本人だ。問題はないよ」


 レンは落ち着いて、柔らかい声でそう言った。


「そ、そう。魔法って便利なのね」

「――それも解らないなんて、どうやらやっぱり君はエトランゼで間違いないようだね。


 黙って探って、機嫌を悪くしたんなら謝るよ。でも――」

「本人確認は大事。それくらい分かっているわよ。私が人違いだったら、パティさんが大変だし」


 言わなくてもよかっただろう、魔法で素性を探ってたことを正直に話し、その上、謝ってきたことからやっぱりレンは悪い奴じゃあないと思った。

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