#4 襲撃・2

 夜の森を行く俺たちの目の前に現れたのは、犬のような頭と人のような体を合わせ持つ魔物。つまり犬人が3体。犬のようにグルル……と唸りながら俺たちの行く手を阻んでいる。


 思い出した。前世で、ゲームの中にこんな姿の奴らが出てきたことを。そして――


「あ、あ、あ……あいつらだ、襲ってきたの!」

「そうか……」


 追われた時のことが脳裏に蘇ってきて、足がすくむ俺。

 逆にレンは落ち着いて身構えていた。


「えっ、えっと、コボ、コボ、コボルだっけ、だっけ?」

「男性は『コボルド』、女性は『コボルト』だよ」

「あ、ああ、こ、この世界ではそうなのね」


 なんか口から、どーでもいいことが出てきた。


 ゲームの中では、コボルドというモンスターは特に怖い存在でもなかった。

 でもホンモノは恐い。鋭い牙とか眼光とか。向かい合ってると気圧けおされて上手くしゃべることができない。


 そんな俺を、レンは変だと思ったような顔で見ていた。


「……『この世界』?」



「……オイ。ソノ オンナ ヲ、ヨコセ」


 コボルトが手にした短剣をちらつかせ脅しながら言ってきた。


「え、ね、狙いは俺? た、食べても美味しくないですよ」


「ニンゲン ノ オンナ ナド ヤワラカスギル。クッテモ マズイ。

 クウナラ オトコ 二 カギル。ソレモ アブラ ノ ノッタ ヤツ ダ」


「そ、そんな。急に男色……もとい、男食癖を告白されても」


 しかもデブ専。俺がこう言うのもなんだけれど、趣味が悪くないか?


「……意外と余裕あるね、君」


 呆れ気味にレンが言った。


「ないよ。いっぱいいっぱいだよ。頭の中ぐちゃぐちゃだよ」


 早口で、やや噛み噛みで喋った。


「みたいだね。

 大丈夫、コボルドはよっぽど困ってないと人を食べたりなんかしない。

 それに君のことは僕が守ってみせる。

 だからちょっと下がっていて」


 頼もしいことを言って、レンはコボルドに目を向けたまま、懐から銃を取り出した。


 え、銃!?

 異世界なのに銃!?


 ……ああ、魔力を弾丸にするとか、そういうものなのか?

 もしくは、そもそも、ここは純粋な西洋ファンタジーな世界ではない、とか。

 そういう世界なのか。


 納得して、いやちょっとだけ納得したくなかったがそれでも納得して、戦闘の邪魔にならないような所まで下がった。




「人さらいは、ご法度はっとだよ」

「ヌカセ!」


 襲いかかってくるコボルトたちを銃で迎え撃つレン。

 それを避けるコボルド達。


 幾筋もの光がコボルド達を襲う……が。


「全く当たらないな……」


 守ってもらっているにも関わらず、ちょっと失礼な愚痴を吐いた。


 銃撃をくぐり抜け、コボルドたちが攻めてくる。

 近づかれると銃をいる余裕なんてないから、レンは銃身で応じた。


 ……こういうのを、前世で何て言ってたっけ……『ガン=カタ』?


 いや、あいつ『銃』を『格闘武器』としては使ってない。せいぜい相手の攻撃を避けたり、のように『そこら辺で拾った石』と変わらない使い方をしている。

 ガン=カタに詳しくない俺でもよく分かる。



 ――あ、銃をしまって武器を持ち換えるようだ。やっぱりあれはガン=カタじゃあなかったんだ。


 ヴォン、という音と共に、レンの持った筒のようなものから棒状の光の刃が伸びた。

 『光線剣レイ=ブレード』か? 前世でゲームやった時にはよくお世話になった。



 レンは剣を手にした途端、まるで人が変わったようだった。

 それまでぐだぐだだったコボルド相手の戦いを圧倒するようになったのだ。


「……やっぱり僕には剣の方が合うな」


 ということらしい。


 レンは剣で、襲ってくる敵を見事に払いけてみせている。

 ――それにしても、本当に見事な剣さばきだと思う。

 流れる風か水のように相手の攻撃をいなし、相手を斬りつけていく。



 見とれていたおかげで、俺はギリギリまで気が付かなかった。『俺』の存在に!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る