#3 襲撃・1

 夜の森は恐い。魔物がいるなんて聞くと、尚更だ。

 そんな恐怖の暗い森を、レンが手にするランタンの灯りだけを頼りに歩いていく。


 ――パティはこんな森を一人で歩いて何をしたかったんだろう。

 歩きながら思い出そうとしても、まだその辺の記憶が蘇らない。



「ねえ、本当に魔物なんかいるの?」


 情けないが、レンの服の袖を掴ませてもらいながら歩いている。

 怯えながらあたりを見回しつつレンに聞いてみた。


「――何を子供みたいな事を。知っているでしょう、いるんだよ」


 ……普通は逆だよな。歳をとったら「魔物なんかいないw」が常識になるよな。

 レンのこの返事が「ああ、俺は今、異世界にいるんだ」ということを実感させてくれる。


「第一、君は、君のお母さんと、それを承知でこの森に引っ越してきたんでしょう?」


 だから記憶がまだはっきりしないから分からないというのに。


 まあ、愚痴らず諦めずに思い出そうとしてみる。

 ……結果、何事も諦めずにやってみるものだなあ、と思った。つまり――


「思い出した。父さんが亡くなったのをきっかけに、生物学者の母さんの研究を進めるためにこの森に引っ越してきたんだった」


 その時、母さんが「あの森には魔物モンスターが出てくるけれど、大丈夫?」と聞いてきた時に、パティ自分自身で「そんなの引っ叩いて追い返してやるわよ!」という根拠のない自信に基づいた返事をしたことまで思い出した。

 ――臆病者だった前世の俺と違って、アグレッシブだろう、昔のパティ……。



 レンは「いるんだよ」と返した直後は(あ、この子「記憶が曖昧」とか言っていたな)と言い出しそうな苦い顔をしていた。

 けれど俺が、思い出した記憶を語って安心したようだ。


「もしかして、記憶が戻ってきた?」

「そうかも。えっと、レンさん、私に関係する言葉を言ってもらえますか? もっと思い出せるかもしれない」


 ……この女の子のような喋り方。怪しまれないよう、さっきからしているんだが、どうもまだ馴染めない。




 ――レンが急に足を止めた。


「そうしてあげたいんだけれどね。それは家に帰ってからの方が良いかもしれない」


 そう言って周囲を睨むように伺う。


 このシチュエーション、まるでホラー映画のようでドキドキする。

 「一体、何がいるっていうんです?」と言いたいけれど、言うことを許されないくらいに張り詰めた空気。

 (俺tueee系の主人公の方がよかった!)と思うことすら許されない緊張感。



 ――カサリ、と草木が薙がれた音が聞こえた。

 同時に黒い影が近くの木の陰から飛びかかってきた。


 すると俺はレンにとん、と肩を押された。


「パティさん、少し下がってて」


 言われた通りに、そのまま下がる。

 するとレンは、飛び出してすぐにかかってきた相手に対して回し蹴りを仕掛けた。


 蹴りは避けられてしまったが、相手とレンの間に間合いができた。



 木陰から襲いかかってきたのは犬のような頭と人のような体を合わせ持った魔物だった。それが3体。


 本当に魔物がいる世界だった!

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