エピローグ-1

「ほら、着いたよー」

「はぁ……やっと見慣れた景色だ……」

「お!! ここがお前の住み家か!!」

「正確に言うと、俺の父親な」

「……本当に私たちも来て、良かったんですか……?」

「うーん……大丈夫なんじゃないかなぁ……。蛍太の友達なんだからさ」

 車のドアを閉め、見慣れた景色に息をつく。……やっと……やっと着いた……。ここに来るまでどれだけかかったか……。

 チャイムを押す。するとすぐに、玄関の扉が開いた。

「蛍太、夜くん。……そして、美月ちゃんと雛都ちゃんだね。蛍太たちから話は聞いてるよ」

「邪魔するのじゃ!!」

「すみません……お邪魔します……」

 雛都は意気揚々と、美月は申し訳なさそうに、父さんの家に入っていく。一気に見慣れた家が騒がしくなった。……たまにはこういうのも、いいな。

「久しぶり、父さん」

「久しぶり、蛍太。元気だったか?」

「……まぁ」

「自由研究は何するか、決まったか?」

「あ、やべ」

「決めてなかったのか……まぁいいか」

 父さんはあっけらかんと笑う。だから俺も安心して、笑い返した。

「狙うは今年も、全国優勝か?」

「ていうか狙ってるのは父さんだろ……」

「ははは、そうだな」

 全国優勝、というのは……自由研究の、一番を決めるコンテストのようなものだ。俺は良く知らない。興味がないから。……ただ好きなものを、父さんと作っていたら、たまたま小学生の時から、賞を取り続けているだけだ。この業界だと、俺は有名人らしい。

 ……知らねぇけど。俺は今回も、好きなものを作るだけだ。

 俺と父さんが玄関口で話していると、そこにひょこひょこと雛都が近寄ってきた。

「なるほど、お前の謎の機械慣れはそこから来ていたのか。罠の仕組みに気づいたり、操縦盤を投げても、きちんと操縦出来たり」

「別に……ただ機械いじりが少し好きなだけで、そんな大それたことじゃねぇけど……」

「罠? 操縦盤?」

 雛都の言葉に、父さんは不思議そうに首を傾げた。うわ、やっべ……変な心配を掛けさせるわけには……。

 俺は慌てて後ろから雛都を拘束し、その口を塞ぐ。雛都はしばらく、ムーーーーッ、と声にならない悲鳴を上げていたが、やがて俺の腕の隙間から逃げ出した。

「あっ、ちょっ、テメェ!!」

「蛍太」

 俺はそのイラついた気持ちのまま雛都を追いかけようと思ったが、父さんの一声で立ち止まった。

 振り返る。父さんはひどく真面目で、優しい表情で俺のことを見つめていた。

「何かあったか?」

「……」

 俺は黙る。何と答えるべきか。一瞬考えたが、初めから答えは、決まっていた。

 俺は、笑って。

「特別なことは、何も?」

 答える。

 そう、何も特別なことなんて無かった。ただ少し……不思議な一週間を、過ごしただけだ。

 でももういちいち、気にするようなことじゃない。

 だって、夏になったのだから。

「……そうか」

 俺の言葉に納得したのか、父さんは俺に笑い返す。そして俺に近づいて、俺の肩に手を乗せた。

「いや、少し、大人っぽくなったんじゃないかと思っただけだ」

「……?」

「まぁたぶん気のせいだな」

「はぁ!?」

 何だその、上げて下げるような!!

 俺の反応に、父さんはクスクスと笑ってそれ以上語ることなく、リビングまで歩く。

「夜くん、スイカがあるんだ。切るのを手伝ってくれるかい?」

「聞け!!」

「あ、はい、もちろん手伝います」

「スイカーーーー!! 夏の風物詩じゃな!!」

「はは、雛都ちゃん、スイカは好きかな?」

「大好きじゃ!!」

 スイカを切る準備を始める夜、満面の笑みを浮かべる雛都、そんな雛都が可愛いのか、同じく満面の笑みを浮かべる父さん。……もう、いいか……ツッコむ気も失せる……。

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