7-3

 当たり前だが、逃げたら相手は追いかけてくる。俺は美月の手を引き、必死に走った。……くっそ、今更出入り口を塞ぐなんて、頭使ってきやがって……!!

「ど、どうしようっ……」

「……まだ、まだやれることはあるはず、だっ」

 俺は美月の手を掴みかけていた“キグルミゾク”の一人を水鉄砲で撃退する。でも、その後ろからまた一人二人と……くそっ、キリがねぇ!!

 その時、ふと横から“キグルミゾク”の一人が出てきた。しかも、何やら拳を構えてただならぬ雰囲気だった。慌てて美月を引き寄せ、その場にしゃがみ込む。すると。


 俺たちに命中しなかったその拳が、相当な轟音と共に壁を破壊した。


「「……!?」」

 ガラガラと壁が崩れ落ち、外の風が頬を叩く。その風に煽られながら、俺たちは思わず同時に、息を呑んだ。おいおい、これは……。

 ……何かこいつらの目的、変わってね?

「……ッ」

 なんて、考えてる暇もねぇ。俺は再び美月の手を取り、走り出した。美月の顔は青ざめていて……。俺も、声をかける余裕がない。だって、確信してしまった。

 前までは、あくまで俺たち……特に美月は、「捕らえる」ことが目的だったはずだ。

 でも今は、美月が怪我……最悪死ぬかもしれないのに、容赦なく、力を振るってきた。

 つまりもう、捕らえる必要は無い……殺しても大丈夫だと、判断されたってことだ。

「……そんなの、あんまりだろっ……!!」

 俺は思わず声を上げる。上げずには、いられない。

 だって美月は、巻き込まれているだけで、こいつは何も悪くなくて、なのに、こんな、理不尽な……。

 こいつがいつも、どんな思いで、この何日間かを過ごしてきたと……!!

「蛍太っ……!!」

 後ろから美月の声が上がる。俺は少しだけ振り返って、そして。

「……ッ、美月っ、危ないっ!!」

 後ろから美月に手を伸ばす“キグルミゾク”の影が。俺は水鉄砲を構えたが……。

 引き金を引いても、何も出なかった。

「……ッ!?」

 水が、出なかった。

 嘘だろ……っ、こんなタイミングで……!!

 俺はすんでのところで美月を引き寄せ、体を入れ替える。そして。

 “キグルミゾク”を避けた拍子に、体が傾くのが分かる。

 そして、今日の俺は運が悪いのだろうか。傾いたその先……そこには、さっきの“キグルミゾク”が開けた壁が、ぽっかり覗いていて。

 この世には、重力というものがあるんだ。それを今、俺の体を以ってわかった。……理解してしまった。


 落ちる。


 せめて美月だけでも無事に、そう思って手を放したが、ダメだった。……美月がすぐに、俺の手を掴む。重力に負けて、落ちていく。

「お前、馬鹿なんじゃねぇの」

「あそこにいたって、どうせ殺されるだけでしょ。……だったら、あんたと落ちる方がずっとマシ」

「……やっぱ馬鹿だよ、お前」

 手を繋いで、目を閉じた。耳元から、音が消える。

 何故か、怖くはなかった。

 何故か。




 俺たちは大丈夫。そんな確信があった。

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