Day6

6-1

「ッ……!!」

 俺は飛び起きた。そして、辺りを見回す。い、今のは……夢……。

 ドッ、ドッ、と、大きく心臓が鳴り響いて、背中には冷や汗が流れている。……冗談じゃない、あんな夢……笑えねぇよ……。

 ……本当に夢、だよな……?

 そう思って俺は振り返る。するとそこに……美月の姿は、ちゃんとあった。美月はきちんと、後部座席で眠っていた。しばらくすると、美月は体を起こす。眠そうに、その瞳を擦って。そのあどけない姿に、どうしようもなくホッと安心する自分がいた。

「……ん~……おはよ……って、何、そんなじろじろ見て。スケベ」

「……」

「……え、否定されないの怖いんだけど……。ほんとにスケベだったの……?」

「……見てねぇよ」

「反応おっそ」

 美月はそう言いつつも、俺が否定してからようやく安心したように微笑んだ。そのことに少し申し訳なく思いつつも、俺はまだ、いつものようには振舞えなかった。

 ほんと……シャレにならない夢を見ちまったもんだ。



 今日も作戦書を見直して、どうすれば“キグルミゾク”を徹底的に倒せるか、見直していく。雛都だけじゃない、美月の持つ書類の情報や、夜の現実的な意見も入ってきて、最初よりはまぁまぁ良くなってきたんじゃないか? という感じだ。

 ……え? 俺が何もしてないじゃないかって? ……いやいや、そんなことは……。

 ……まぁ。してない。ほぼ話を聞いてるだけだ。はい。

「蛍太~、僕たち昼ご飯の買い物行くから、留守番よろしくね」

「留守番……家じゃねぇけどな、ここ」

「わかってるよ……やっすい軽自動車ですよ~……でも頼んだからね」

「おう、わかった。……」

 そう頷いてから、俺は夜の後ろにいる二人に目を向ける。

「お前らもいるのかよ」

「菓子をねだる!!」

「おーそうか堂々とした宣言だな」

 そう言い放った雛都は、腕を組みながら満面の笑みだった。それを見て夜が苦笑いを浮かべているから、恐らく菓子を大量に買うことを約束させられたのだろう。可哀想に。

 一方美月も、どこか楽しそうに笑っている。こいつも行くつもりらしい。

「あんたのアイス選びのセンスは壊滅的だからね」

「んだと。ソーダ以外が無いだけだ」

「そんなスーパーあるわけないでしょ。安心しなよ。私がばっちりなの選んできてあげるから」

 ドヤ顔を浮かべる美月。やめろその顔むかつくわ。

 俺はため息をついてから夜を見つめる。すると夜は、何も言ってないのに小さく笑っていった。……何だその顔。

「安心してよ。絶対目は離さないから」

「……何も言ってねぇよ」

「顔に書いてあるよ」

 そう言って夜は俺の鼻先を指でつつく。珍しく得意げな顔をしているのが、またむかついた。

「どうでもいいから、早く行けよ」

「はいはい、行ってきます~。……美月ちゃん、雛都ちゃん、行くよ~」

「あ、はーい」

「待ちくたびれたぞ!!」

「別にそんなに待たせてないよね!? 飽きるの早すぎじゃない!?」

 美月と雛都は、もうすっかり自分たちの世界だった。雛都は作戦書を眺めていて、美月は廃材置き場の入り口辺りで暇そうにぶらぶらしていた。……確かに飽きるの早すぎだな……。自由かよ。

 気をつけろよ、と今一度念を押して、俺は三人を見送る。しかし。

 ふと美月がくるりと回れ右。そのまま、俺まで歩み寄ってきた。

「ねぇ、あのさ」

「何だよ」

「ちょっと、お願いがあって」



 帰ってきたのは、お昼時と言うには割と時間が過ぎた、午後3時の時だった。

 あまりにも帰ってこないものだから心配で、俺は何度も連絡を入れた。……その矢先の、これだった。

 帰ってきたのは、夜と雛都だけ。……美月の姿は、そこになかったのだ。



「おい……美月は?」

 俺はそう声をかけるが、二人は黙っていた。いつもうるさく騒ぎ立てる雛都でさえ、だ。

 しばらくして、夜が小さく口を開く。

「……ごめん」

 絞り出すような、そんな、か細い声だった。言葉を失う俺に対し、夜は淡々と続ける。

「美月ちゃんは、連れ去られた。……“キグルミゾク”に」

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