5-2

「よし、こんなもんじゃなっ」

 そう言って雛都は大きな紙を盛大に広げる。それは夜の車に置いてあった、模造紙だった。何故模造紙があるか、だって? ……それは俺の自由研究用のものだったからだ。結局何にするか考えてねぇな……父さんに会う前には、早く決めておきたいんだけど。

 ……そのためにもまずは、この作戦を成功させないとな。

 雛都の持つ模造紙、そこには、「“キグルミゾク”をはっちゃかめっちゃかで倒すのじゃ作戦!!」と、でかでかと、そしてきったねぇ字で書いてあった。

「はっちゃかめっちゃか、って何……」

「お前何でそんな字きたねぇんだよ。練習しろ、小学生」

「なにおう!? お父様とお母様は、きょしょー的な字? だと、褒めてくれたぞ!?」

「「……」」

 俺と美月は思わず黙る。きょしょー……って、もしかしなくても「巨匠」だよな……絶対褒められてないよな、遠回しに貶してるよな、オブラートに包んでるだけだよな、それ……。

 まぁ、それは置いておいて。

「……レボリューション号で、“キグルミゾク”のアジトをバーンとやる……」

「……ねぇ、レボリューション号って……? 革命?」

「あー、お前は知らないのか。お前を助けに行った時のロボットの名前」

「……ふーん……」

「ついでに言うと、こいつの私物」

「しぶ……は!? あんた頭大丈夫!?」

「気持ちはわかる。だけど事実だ」

「お前ら、本当に失礼な奴らじゃの~。ワシがあれを持っていて、何かおかしなことでもあるのか?」

「「おかしなことしかないわ!!」」

 俺たちはいちいちツッコミを入れていきながらその……果たしてこれを本当に作戦書と呼んでいいのか……その作戦書を読み進めていく。決行日時、明後日のお昼。持ち物、武器・昼ご飯・動きやすい服装……。

「……遠足みたいだな」

「……それ私も思った」

「なにおう!? 真面目に書いた結果じゃ!!」

「いや、真面目なのは伝わってくるけど……」

 この書き込み量、確かに真面目なのは伝わってくる。熱がこもりまくってて……。

 ……逆に言うと、熱がありすぎだ。足が浮いているというか、現実味がない。これは、どうすればいいんだ……。

「……ちょっと見せて?」

「ああ……。……え?」

 俺は反射的にその声に答えてから模造紙を渡し、振り返る。

 俺の背後に立っていたのは、車の点検をしていたはずの夜だった。

「うーん……ここはこっちじゃなくて、ここからの方がいいんじゃないかな。ここからだったら一目にもつかなくて、気づかれる可能性が幾分か低いと思う。……あの縄の引きちぎり方から見て、あの方々はあんまり頭は良くないみたいだからね」

「ふむ……なるほど!! お前、意外と頭がいいな!! 夜!!」

「い、意外!? ……これでも一応大学生だからさ~……雛都ちゃんは僕のことを何だと思ってるの~……」

「ヘタレ」

「そうだねヘタレだね……」

 雛都にド直球に言われてそれを肯定し、落ち込んでいる夜の姿に、俺は声を投げかける。

「夜、お前、口出しはしないってさっき……」

「うーん……まぁ、そうなんだけどさ。やっぱり大人からの意見も必要かな、って思ったから。君たちのアイディアを、僕がなるべく現実に近づけて繋ぐ。……それが出来ればいいな、って」

「……夜……」

「あとは、その作戦が危ないものじゃないか、って確認も必要だし……君たちがそう真面目にやるなら、僕も真剣に向き合ってあげるよ」

 保護者だからね、なんて夜は言って、どこか照れくさそうに笑う。その表情に、俺は胸が震えるようだった。一時は反対していた夜が、こうして歩み寄ってくれたのだから。

「……夜さん……ありがとう、ございます……」

 俺の横に立つ美月が、驚いたような表情のまま告げる。そんな美月の頭を撫で、お安い御用だよ、なんて夜は、美月を安心させるように、そう言った。

 ……ここでやっぱり犯罪臭すご、とか言うといい雰囲気ぶち壊しだな。やめておこう。

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