Day4
4-1
「ワシは絶対にオレンジ味!!」
「私、チョコがいいんだけど。何でソーダしかないの?」
「うるせーお前ら買いに行かせといて文句言うな!!」
俺は大声でそう言いながら、ワガママを言う女子二人にとても疲弊していた。
俺の手には、ビニール袋。その中には、大量のアイス(ソーダ味)。
俺はそれらをクーラーボックスに詰め替えながら、近くに立つ夜に目を移した。
「……夜、いい加減、元気出せよ……」
「…………うん…………」
夜は死んだ目でそう答えた。駄目だこいつ、元気出しそうにないな。……まあ……無理もないか……。
こいつ、家無くしたんだから。
というのも話は昨日に遡る。昨日、美月を助けた後、例の二人組をまた、今度は頑丈に縛り上げ、ロボットを元の場所に戻し、その後皆で再び夜の家に向かったのだが……。
戻ってみるとあら不思議。夜のアパートが燃えていた。
幸い、死傷者は誰一人として出なかったようだ。皆どこかに出払っていたと。もともと住んでいる人の少ないアパート、というのも幸いしたらしい。
ただ燃えた原因。放火だった。俺たちは丁度燃えているときに帰ってきたのだが……アパートの近くに、怪しい人影がいたのだ。……しかも、着ぐるみを被った。つまり、そういうことだろう。
あいつらが俺たちに、仕返しをしてきたのだ。
「はぁ……銀行の通帳とか、そういう大事なものはたまたま車に積んでたから良かったけど……俺たちのせいで何人かが住む場所を失ったと思うと、申し訳なさすぎて胃が痛い……」
「でも、起こっちまったもんはしかたねーだろ。切り替えてこうぜ」
「それが出来たら苦労しないんだなぁ〜……」
お陰で昨日は、近くの廃材置き場のような場所に車を移し、夜の車内で寝た。雛都を家に帰させる余裕が夜に無かったため、雛都も一緒に、四人で車内で寝た。起きたら首が痛かった。やっぱりベッドというのは偉大だ。
「夜もほら、食えよ」
「うん……」
いまだに心ここにあらず、といった調子の夜の口に、俺はアイスをぶっ込んだ。夜は特に驚くこともなく、それを受け入れてもぐもぐ、ただ淡々とアイスを食べ進めていく。……本当に心ここにあらずだな……つまんねぇの。
アイスを食べ終わってとぼとぼと車に戻る夜を横目に、俺は女性陣二人に目を向けた。その瞬間。
「ていやっ」
「ぬわっ!?」
突然水が飛んできて、俺の視界を塞いだ。犬のように何回か首を横に振って水を飛ばすと、俺は水の飛んできた方向を見る。すると水鉄砲を構えた雛都、そしてその隣で美月が、こちらを見てにやにやと笑っていた。……こいつら~……!!
「やりやがったなっ。……おらっ!!」
「きゃっ、ちょっ、やめてよ馬鹿!!」
「馬鹿とは何だ、そっちからやったんだから、お返しだっつーの!!」
「なにおう~~~~っ!?」
「ふはははは!! 面白くなってきたのぉ!!」
夜の車に(何故か)積んであった膨らませる式の小さなプールで、俺たちは年甲斐もなくはしゃぎまくる。いや、美月や雛都は年相応か……大人は俺だけか。
「何余裕ぶっこいてんのよっ!!」
「ぐはっ」
再び顔面に水が直撃。俺は勢い余って倒れこみ、ついでに小さなプールに落っこちて、盛大に中の水を零した。
二人に笑われた後文句を言われたが、知らん。自業自得だろ。
その後水をまた補充し、しばらく水の掛け合い合戦二回戦目をやっていると、服はびしゃびしゃ、プールの中の水も、ほとんど無くなってしまった。……さっきのやつ、俺がプールに落っこちて水を零さなくても、どうせなくなってたんじゃね?
「はー……つっかれた」
「……あんたはしゃぎすぎでしょ。何歳よ」
「先に吹っ掛けてきたのお前らだろーがっ!! ていうかお前も十分はしゃいでただろうが!! ……13歳だよ。誕生日、3日後」
「え、じゃあ中2? ……同い年じゃん」
「あ、そう……」
「うん……」
「……」
「……」
何となくそこで、会話が途切れてしまった。話題が、無い。思わず助けを求めるように俺たちの間にいる雛都を見たが……雛都はさっきの水かけ合戦で疲れてしまったのか……眠りこけていた。……こいつ~っ、役に立たねぇ……!!
そして美月も同じ思考回路だったのか、雛都から少し目を上げた瞬間、目が合った。またしばらく黙って、次の瞬間、少しだけ笑い合う。雛都が寝ているから、大声は出さず、小声で。
「……ねぇ」
「……何だよ」
「昨日さ、何で助けに来てくれたの」
美月は、笑いながらそう尋ねた。責めるような口調ではなく、ただ単に疑問を吐き出すように。
……何で……何で、か……。
あの時のことを思い出す。あの時は……「助けなければ」。ただそれしか、考えていなかった。何で、と、聞かれても……。
「……」
「……」
「……上手く行くって、確信があったから」
絞り出すように、そう言う。ああ、確信があった。……きっと、それだけじゃないが。
すると美月はその答えが気に召さなかったのか、ええ、と不満そうに声を上げた。
「何だよ」
「それって、上手く行く確信がなければ、助けに来てくれなかったってことじゃん!」
「いや、そうだろ。誰が好き好んで上手く行かなそうなことすんだよ」
「だって……それじゃあさ~……もう、いいよ」
知らない、と美月はそっぽを向く。その横顔に文句を言ってやりたくて、でも言葉は出なかった。
「……いいだろ、結局上手く行ったんだし」
「……まぁ、そうだけど」
「つーか、助けたんだから礼くらい言え」
「うん、ありがとう」
「まぁお前、素直に礼を言うタイプじゃねぇだろうけど……え?」
「え? って何よ」
「だって、今」
ありがとうって。
「……さあ、しーらない」
俺の言葉をはぐらかすように、美月はニーッ、と笑う。それはあどけなくて、どこか美しい笑みだった。
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