3-3

 美月は、この場から逃げ出す方法を考えていた。

 朝、着ぐるみを被った二人組に無理矢理連れて行かれ、辿り着いたのは謎の建物。後ろで手を縛られ、足は動くものの、二人組の目を掻い潜って逃げることは、難しい。

 どうする、美月の頬を、冷や汗が伝う。早くどうにか、ここから逃げ出さなければ。じゃないと……自分は一体、どんな目に合わされてしまうのか。

「オンナ」

 そこで声が掛かる。犬の被り物をした奴が、美月に近寄ってきていた。

 反射的に美月は、一歩下がる。それに伴い、犬の被り物をした奴も一歩近づく。それを繰り返し、やがて、美月は壁にまで追い詰められた。

「……何よ、わ、私……あんたたちのことなんて、何も、知らない……」

「……でも、オマエ、アイツらの、ムスメ。不安要素は、一つでもあるなら、潰す」

「ッ……!!」

 美月は息を呑む。その無機質な声に、恐怖で足がすくむ。喉がカラカラで、声が出ない。怖い、怖い怖い怖い──!!

「……嫌、たす、けて、お父さ、お母さんっ……」

 犬の被り物をした奴が、美月に手を伸ばす。美月の瞳に大粒の涙が浮かぶ。そして痛みに備えるように、ギュッと目をつぶり。

「蛍太っ……!!」


 建物が、大きく揺れた。


 それは、立っていられないほどの揺れだった。美月はもちろん、犬の被り物をした奴も、その奥にいた猫の被り物をした奴も、全員でその場に座り込む。何? 地震? と美月が辺りを見回すと同時。


 美月の真横の壁が、思いっきりブッ壊れた。


「…………………………は?」

 美月の目は、点になっていた。いや、点になるしかなかった。目の前の光景が受け入れられない。だって。


「ちょっ!? 雛都ちゃん!? 一歩間違えたら美月ちゃんごとぽっくりやっちゃってたんじゃない!?」

「微調整は苦手なんじゃ!! 階数正確に割り出せただけ感謝せい!!」

「それで死んだら元も子もないでしょー!?」

「お前ら、うるせー!!!!」


 目の前には大きなロボット。操縦席のような所で言い争う雛都、夜、蛍太の3人。あの操縦席のようなところからここまでそれなりに距離があるのに、ここまで声が聞こえる。どれだけ大声で話しているのか。

「ほらお前! とっとと迎えに行かんか!」

「は!? どうやって!?」

「こう、ロボットの腕を滑り台みたいに滑り降りてな! 手まで乗れ!」

「一歩間違えたら死ぬんだが!? ……あー、まあ、上手く行くか」

 雛都の声に大きくツッコんでいた蛍太だが、すぐに納得すると、危なげもなく操縦席から出て、ロボットの腕を滑り降りる。あっという間に辿り着いて。

 ……美月の、目の前に。

「……よう」

「……何、してんの、あんた」

「俺もわかんねぇよ。俺が聞きたい」

 美月の質問に対し、蛍太がそう、苦い顔で答えるものだから。

 美月は、吹き出した。そのまま、大声で笑った。腹をよじるほど笑って、目に涙を浮かべて、それはそれは大きな声で、笑った。

「なっ、何だよ」

「だって……何もわかんないのにこうしてここに来たの……!? あははっ、あー……面白……!!」

 美月は一通り笑って、蛍太を見つめる。

「……助けに、来てくれたんだ」

「……そーだよ」

 わかったら、来い。

 蛍太がそう手を差し出し、美月は迷わず、笑いながら、その手を取った。

「かっこよくなーい」

「うるせ、言ってろ」

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