3-2

 もちろん俺も夜も、感想は揃いも揃って「は?」だった。だって、意味が分からない。わからないもんはブッ壊す。まずブッ壊すべきは、その考えでは。そうは思ったが、雛都のあの自信に満ち溢れた、あの輝いた瞳。なんだか真っ向から突っぱねるのは、違う気がした。

 ワシにアイディアがあるから、と言って譲らない雛都の先導の元、俺と夜は都内某所を歩いていた。そして。

「ちょっ、ふ、二人とも待って……!!」

「何じゃ、軟弱な奴じゃのぉ」

「軟弱というか、ここ道じゃないでしょぉ!?」

「あー、夜。ほら、手ぇ出せ」

「うう……蛍太、ありがとう……」

 俺は夜の手を掴み、何とか上で引っ張り上げた。流石に、大人を一人引き上げるのは、大変だった。

 そうしている間にも、雛都は一人で排水管をよじ登り、塀の上を歩き、慣れたようにスイスイ進んでいく。……いつもここを使っているのだろうか。というかあいつ、雛じゃなくて猫だろ絶対!!

「つーか雛都、どこに向かってんだよ!!」

「ふぅ……最近の若者はせっかちで困ったものじゃ。……もうすぐ着くぞ」

「……ほんと~……? 僕そろそろ疲れて死んじゃうし、こんなとこ通っていいのかなって罪悪感で死ぬ~……」

「どっちにしろ死ぬのか……」

 夜の言葉に俺が苦笑いを浮かべながら言うと、雛都がふと、塀の途中で飛び降りた。だから俺たちも、慌ててそれに続く。

 たどり着いたのは、真っ新な平地だった。本当に広い。野球でもできそうな広さだ。でも何もない。雑草一本すら生えていない。

「……何だここ」

「ワシの土地じゃ」

「「ワシの土地じゃ!?」」

 思わず雛都の言葉をそっくりそのままおうむ返しにした俺と夜の声が重なる。いや、誰だってこうなるだろう。

 雛都は特に弁解もすることなく、堂々とした足取りで平地を進んでいく。……本当にこいつは何者なんだよ……。

 そして雛都は突然しゃがみ込んだ。何か地面を撫でている。近寄ってそれを覗き込むと……雛都が撫でたところ、何か金属の板のようなものが覗いていた。……何だこれ。何か、スイッチみたいな……。

「ポチっとな」

「「え」」

 雛都はそのスイッチ(?)を押し、再び俺と夜の声が重なる。すると。


 ゴゴゴゴ!! と大きな地鳴りがし始めた。


「な、何だ……!?」

「え、地震!?」

「お前たち、ちっとは落ち着かんか」

「この状況で落ち着けるのはよっぽどの鈍感な人だと思うよ!?」

 ……夜、さっきから大声を出してばかりだが、声は大丈夫なのだろうか。

 そんな半現実逃避がてらそんなこと考えていると、目の前の地面に一本の線が入った。……意味が分からないだろ? だが、そのまま聞いてくれ。一本線が入ったと思うと、そこがぱっくりと割れる。その下に……何か見えた。

「えっと、これは……」

「ふむ、下に降りよう。もっと近くで見せてやる」

 そう言うと雛都はまた、別のスイッチのようなものを押した。すると近くに昇降機、つまりエレベーターが現れた。そして俺たちはそれに乗り込む。

 そのエレベーターは床と扉以外ガラス張りで、下に入っているものがよく見えた。……おいおい、こういうの、アニメとかで見たことあるぞ……。

 エレベーターは完全に下にたどり着き、扉がスーッと開く。雛都はまるでステップでも踏むような軽い足取りでそこから降りた。俺と夜も、恐る恐るそれに続く。

 そこにあったのは……。

「紹介しよう、ワシのロボットじゃ!!」

「蛍太、ごめん。僕の頭思いっきりぶん殴ってもらっていい? なるべく強めに」

「ああ、もちろん。その後俺の頭も頼む」

「お前たち、何阿呆なこと言っておる」



 えー、そこにあったのは、結局ロボットだった。

 見上げると、そのサイズが大きすぎて首が痛い。目に映るのは爛々と光るボディ。子供の持つロボットのおもちゃなど、これの前では文字通り陳腐な玩具だ。まぁ俺にこの壮大さ、カッコよさを物語ることはできない。自分の思い描くロボットを、各々で思い浮かべてくれ。

「これはなぁ、お父様にどーしてもと頼み込んだら、知り合いだという精巧技師に作らせてくれたようでな!! 飛ぶし、ビームも打つし、何より操縦可能だ!!」

「夢じゃないのはさっき蛍太に散々殴ってもらったからわかったけど……そうなると僕、今度はこの日本の未来が心配になってきたよ……」

「世も末だな……」

「二人とも、ようわからんが気を落とすな」

「「誰のせいだ!?」」

 どーしてもと頼み込んだって。昨日の光景がよみがえる。……あんな風に駄々をこねたのだろうか。こいつのお父様とやら、可哀想に。合掌。

「……つーか何でロボットが欲しかったんだよ。……まさか、何かブッ壊したいとか……」

「かっこいいからじゃ!!」

「あっそうすか。聞いた俺が馬鹿だった」

 こいつのお父様、可哀想に。合掌(2回目)。

「……それで雛都ちゃんは、これで美月ちゃんを助けに行けばいいと、そう思ってるってこと?」

「うむ!! ナイスアイディアじゃろ?」

「どこが????」

 夜が雛都の考えをそうバッサリ切り捨てる。すると雛都はムッとしたように眉をひそめた。

「何じゃ何じゃ!! いい考えじゃろ!! このレボリューション号の、初出陣を飾るのじゃーーーー!!!!」

「レボリューション号って、このロボットの名前!? てか初出陣って、これ撮影とかじゃなくて、本当に危ないんだからね!? このロボット、誰が操るのかっていうのあるし、こんなロボットが街出たら大パニック、大ニュースだよ!?」

「わかっておる!! レボリューション号はワシが操るし、そんな騒動ワシの家が、揉み消す!!」

「金にすぐ物言わせようとしない!!」

 夜が説き伏せるように、雛都が駄々をごねるようにそう言う。その会話を横目に……俺は一人、考えていた。

 ……美月、ロボット、最高峰のセキュリティを誇るビル、怪しい二人組……。

 ……。

「……やろう」

 俺の言葉に、夜と雛都の視線が集まった。

「やろう。このロボットで、美月を助けに行く」

「……え、け、蛍太!?」

 夜の顔に、何言ってるんだ、と書いてある。……気持ちはわかる。俺も正直、どうしてこう思うかはわからない。だが。

「大丈夫だ。上手くいく」

 あの時、美月の手を引いて逃げ、罠に気づいた。あの時。あの時の感覚と。……一緒だ。

 きっと、いや、絶対大丈夫だ。絶対上手くいく。

 何故だか、そんな確信があった。

「夜、やろう」

「……蛍太……」

「そうじゃ!! やってやるんじゃ!!」

「……ちょっとお前は黙ってろ。ややこしくなる」

「なにおう!?」

ぶーぶーと唇を尖らす雛都は放っておき、俺は再び夜を見つめる。

「……夜」

「……」

 しばらく見つめ合い、先に目をそらしたのは……夜だった。

 はぁ、と夜は俯いてからため息をつき、再び顔を上げ、俺を見つめる。

「……蛍太は、昔からそうだよね。こう、と決めたらそうする。それ以外の選択肢がない。……そして自然と上手く行く」

「……」

「いいよ。ただし、ちょっとでもマズいと思ったら、すぐに引き返すから。いいね?」

「……ああ」

 夜の真っ直ぐな瞳を、俺は見つめ返して大きく頷く。そして俺たちは雛都を見た。雛都も俺たちを見つめ返し、うむ! と大きく頷く。

「レボリューション号、出動じゃ!!」

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