Day3
3-1
昨日の晩は、まぁ……ゆっくり休んだ。
俺たちが昨日捕らえた二人組……夜が、「何も食べさせないのは、可哀想だよ」と言うものだから、夜が代表してブロック状の栄養補助食品を食べさせていた。
すると不思議なことに、そいつらはそれを食べた。……着ぐるみを、被ったまま。というか、口の部分が動いたのだ。動いて、うん、普通に……「普通に食べた」と、言ってしまって構わないのだろう。……そもそも、あれは着ぐるみではない可能性すら浮上してきた。怖い。
各々抱いた感想はそのようなものだろう。雛都だけは、「なぁ!! それはどのような仕組みなんだ!? なぁ!!」とノリノリで二人組に尋ねていた。純粋も怖い。二人組も終始だんまりで、有力な情報は得られなかった。
雛都のみ一度家に帰り(「親御さんが心配するから家に帰りなさい」という、夜のしつこい説得に雛都が根負けした結果である)、昨日と同じ部屋で寝た。
そんな日の、次の日のことだった。
俺は昨日と同じように、美月が起きているか確認しようと扉に手をかけ……それから思い直して、咳払いを一つ。そしてノックをした。昨日、美月に馬鹿だと言われたからだとか、全然そんなんじゃない。
返事は、無かった。それは別にいいのだ。ぐっすり眠れているのなら。
……ただ何となく、嫌な予感がした。
「……開けるぞ」
もし寝ていたら、そっと閉じればいい。鍵が閉まっているなら、そこから回れ右をすればいい。そう自分に言い聞かせながら、扉を開け。
俺は、絶句した。
鍵は相変わらず閉まっていなかった。不用心な……。いや、それよりも。
美月が、いない。
昨日みたいに、自分から出ていったわけじゃない。そのくらいわかる。布団が、乱れている。……美月は、抵抗したんだ。誰から? 決まっている。……昨日捕まえた、着ぐるみ二人組だ。俺はすぐに身を翻し、部屋から出た。
「あ、蛍太、美月ちゃん起きてた~……? って、蛍太!? どうしたの!?」
「美月がいない!!」
通りすがりにエプロンを身に着ける夜に尋ねられ、端的に答えると、夜は顔色を変えた。すぐにエプロンを取って、俺に付いて来る。
「自分から出ていった、っていう可能性は?」
「ない。……抵抗してた跡があった。連れ去られたんだ。美月は」
「……そっか」
夜は小さく相槌を打つ。アパートの階段を4段飛ばしで飛び降り、俺たちはアパート共用……と言っても、使う人は全くと言うほどいないらしい……の倉庫に向かう。何故なら昨日そこに、あの二人組を閉じ込めたからだった。
夜が扉に手をかけて俺を見る。俺は、頷いた。そして夜は、扉を一気に開け放つ。
……そこは予想通りというか。……もぬけの殻だった。
「……っ、あいつらやっぱり……美月を……!!」
「……ロープが、切れてる。鋭利なもので切られた……とかじゃなくて、力で無理矢理……って感じだ。……倉庫の鍵も同様だね。……あ~これ、僕が弁償するのかなぁ……」
クソほどどうでもいいことを気にする夜を他所に、俺は考える。美月が連れ去られて、どれくらい時間が経っているんだ? 美月は、無事なのか。何か痛い目に……いや、それよりも、まず。
美月は、怖がっているのだろう。
早く、助けに行かねぇと……!!
そう思って宛もなく駆けだそうと思った、その時。
「……お。お前ら、こんなところにいたのか」
俺の行く先に、雛都が現れた。そしてそう言ったかと思うと、ふわぁ、と欠伸をする。寝癖を見るに、起きてすぐにここに来た……といったところか。
……いや、今、こいつに構ってる暇は……。
「昨日の奴らに付けたGPSが動いていたからな。何事かと思って、見に来たんじゃが……」
「……は? 今、何て?」
「ん? 耳の遠い奴じゃな。だから、昨日の着ぐるみの二人組に付けていたGPSが、朝起きたら動いていたから……」
「見せろ!!」
「は!? ちょっ、どこ触って……うひゃひゃひゃひゃ!! そんなとこには入ってなっ……!!」
「ちょちょちょ、蛍太ストップ!! 落ち着きなって!!」
確認しようと雛都の全身をまさぐっていた俺は、夜に羽交い絞めにされたことで、行動を止めさせられた。一方雛都は、ゲラゲラ笑っている。……くっそ、こんな、緊急時に何笑ってんだ……!!
「えっと、雛都ちゃん? そのGPSであの方々が今どこにいるか……見れる?」
「ひひひ……こ、これで見れるぞ……」
そう言って雛都が笑いながら差し出したのは、真っ白なタブレット……ってこれ、最新モデルじゃないか。何となく思っていたが、こいつの家、かなりの金持ちなんじゃ……。
俺と夜、二人でそれを覗き込むと……何やら赤い丸が、とある建物の中で止まっていた。……この赤い丸が、あいつらの居場所ってことか……。
「よし、行こう」
「ちょっ、蛍太!!」
「何だよ夜、このまま美月をほっとけって言うのかよ!!」
「言わないよ。助けに行くつもり」
夜のあっさりした、でも力強い言葉に、俺は思わず押し黙る。でもね、と夜は付け足した。
「実際、どう助けに行くの? 僕たちで行っても、どうせ何も太刀打ちできなく一方的にやられるのがオチだよ」
「それでもっ……」
「蛍太。美月ちゃんが心配なのはよくわかる。でも僕は……お前も、お前のことも心配。おばさんからお前のことだって任されてるんだし、僕は蛍太を、危険な目に合わせるわけにはいかない」
「……」
その真剣な目を前に、俺は何も言えない。夜が俺を心配しているのが、わかってしまうから。
「それにここ、有名なビルだよ。……最高峰のセキュリティ。新素材を使った超頑丈なビルで、首都直下型地震にも耐えるとか……」
「……何でそんな知ってるんだよ」
「まあ、このビルが出来たとき、すごく話題になってニュースとかで引っ張りだこだったからさ」
「ふぅん……」
……俺はニュースとか、全然見ねぇからな……。知らなかった……。
「……最高峰のセキュリティ……まず中に潜入は無理か……」
「というか美月ちゃんを狙ってる……あの変な被り物の人たちの正体もわからないし、その人たちとこのビルが関係あるかすらわからない。……圧倒的に情報不足……」
はあ、と俺たちは同時にため息をつく。前途多難、ってやつだ。一体、どうすれば……。
「お前たち、何を考えることがある?」
そこで俺たちの間に、声が割って入った。その声の主はもちろん。……雛都。
「何を考えることが、って……」
「だって、簡単な話じゃろ」
雛都は笑って、あっさりした口調で言った。
「わからないもんは、全部ブッ壊せば解決じゃ!!」
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