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そんなことを思い出していると、夜が突然急ブレーキをかけた。シートベルトが緩かったらしく、俺は前方座席に思いっきり頭をぶつける。その痛みに耐えながら、「突然急ブレーキ」とは、「頭痛が痛い」みたいなことだろうか、なんてどうでもいいことを考えた。
「な、何だよ夜」
「ごめん、ちょっと待ってて」
その夜の声色がどこか真剣で、俺は小さく頷くことしかできなかった。それを見て夜は、すぐ戻るよ、と笑ってから車から降りる。
一体何があったのか。俺はクーラーボックスの中に入っていた保冷剤を取り出してぶつけたところに当てながら、夜の行く先を目で追った。するとそこには……路地裏。うずくまる、人影。それを見て、俺は納得した。
繰り返すが、夜は「超」がつくほどのお人よしだ。少しでも困ってそうなら、手を貸しに行ってしまう。そしてその性格、俺は嫌いじゃなかった。
夜はその人物の前にしゃがみ込み、何かを話しかけた。するとそいつは、ゆっくり顔を上げる。顔がよく見えなかったから、俺は車の窓を開けた。そして目を見開く。
そいつは、女の子だった。
ラフな格好、ショートパンツ、肩にかかるかかからないかくらいの黒髪。胸の大きさなどここから見えないから、てっきり男かと思った。
綺麗な顔だな、俺と同い年くらいか、なんて思っていると、俺はあることに気が付く。
夜とその女の子を見る、変な奴が視界に入ったからだった。
というのもそいつら、変な被り物をしていた。一方は表情の死んだ猫。もう一方の奴は、だらしなく舌を出した、近年稀に見るアホ顔をした犬だった。そしてそいつらは、夜たちにじりじりと近づいていく。……まるで、二人に近寄っていることを悟られたくないようだった。
嫌な予感がする。そう思って俺は、口の横に手を当てて叫んだ。
「夜!! 左!! 怪しい奴ら!!」
すぐに夜は、俺の方を見た。そして次に言われた通り左を。変な被り物をした二人組に気が付き俺と同じ感想に至ったのだろう。夜はその女の子を迷いなく抱き上げると、こちらにダッシュして来た。
おう……あの非力な夜が、俺と同い年くらいの奴を持つとは……。
「蛍太!! 運転席と後部座席!!」
「っ」
夜の意図に気が付き、俺は自分の真横の扉を開け放ち、運転席の方は足を伸ばして半ば蹴破るように開けた。そして俺が反対側の席に座ると同時、夜がその女の子を先程まで俺が座っていたところに放り込む。そして夜自身は、運転席に雪崩れ込んだ。
「蛍太たち!! 飛ばすよ!!」
「夜、追って来てる!!」
「わかってる!! でもこっちは車だから、引き離せばこっちのもんだ!!」
しっかり捕まってね!! と夜は叫び、先程の言葉通り、ぶっ飛ばした。俺はシートベルトがかろうじて出来たが、横に座る女の子は手間取っていたため、俺はその子を抱き寄せた。
勘違いしないでほしい。少しでも安全になるようにだ。やらしい意味など全くない。
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