第41話
わたしとヴェルンはまずポッセの屯所に向かい、方々へ連絡をしてもらいました。デルワダ分駐所へはイスハレフ追悼式に同胞団が現れる可能性がある、と伝えてもらいました。
私たちとデルワダ分駐所の魔女たちとはそれなりの信頼関係が出来ているし、彼らも同胞団を追っていますから動いてくれるでしょう。しかし、他の組織を動かすのはなかなか難しそうです。私たちでさえ誰か分からない人物が殺されるかもしれないと伝えるくらいしかできません。
「式典には有力者の一族がみんな参加するわけではない。しかしノイルの補佐を努めていたノシリアだ。顔を出す可能性は高いだろう」とヴェルン。
ポッセは私たちのために馬車を用意してくれました。乗合馬車よりは速いはずです。わたしは今日はすでにイスハレフ廟を一往復しているのですが、今度はヴェルンと一緒にそこに向かっています。
「でもヴェルンは忘れてたじゃないですか、追悼式があるってこと。――式典はどんな感じなんですか?」
「行ったことが無いのでわからない」
「なんで……」
「追悼式といってもあれは政治的な催しだ。政治家にとって退役兵の機嫌を損ねることは得策ではないからな」
「作戦はあるんですか?」
「それを考えているんだが、行ったことがないので様子が分からないんだ」
「え……、おねがいしますよ……。あそこで要人を狙うならやっぱり周囲の森に潜むんじゃないでしょうか」
「いや、同胞団は必ずしもあそこでノシリアを始末する必要は無いと考えているように思う。式典では軍と自警団が警戒任務に当たるそうだからな。わたしたちが動いていることを知らない彼らは事を急ぐ必要を感じていないはずだ。――まして同胞団は標的を特定するためにヒプノタイザーの魔法で
「それはそうですね」
「すると馬車だ。式典の参加者を装って馬車で乗りつける。馬車は見晴らしの良い場所を確保し、その馬車の中にはノシリアの顔を知っている桃魔女とフノテンボガが潜み、望遠鏡で参加者の顔を確認してまわる。ノシリアを特定し、
「そうですね。理に適っているように思います。では……、森の中の警戒は軍と自警団に任せて、ノシリアの顔を知っているヴェルンは到着した馬車に声をかけて回るというのが良さそうですか? ポッセだと言えば協力してくれるでしょう」
「たまたま同胞団の馬車に挨拶してしまって戦闘になるかもしれないぞ」
「危険ですか?」
「ナピさえ良ければそれでいこう。自分たちの身を守る自信はある。話に聞くレンガ色の
だいたい作戦がまとまりました。しかし、そもそもノシリアがこの式典に参加するという確信はありませんし、同胞団の動きも推測でしかありません。それ以前にアストラガルス同胞団の狙いがノシリアが隠し持っているアロンの杖だというのもヴェルンの推測にすぎません。それでもいまのところ唯一の手がかりでもあります。
「ヴェルン、事件が大きくなって、三年前の内紛の存在が明るみになる可能性は心配していないんですか?」
「……不安はある」とヴェルン。「イスハレフ大隊の後継組織を
わたしはもちろん恐らくヴェルンも、なにかそわそわした気持ちでいました。何かが起きるかも起きないかもわからない。そもそも敵が誰なのか、はっきりとわかっているわけではありません。そして護衛対象さえまだわからない。なんなら護衛対象が敵対的という可能性すらあります。
馬車が廟に近づくと、ヴェルンは珍しく弱気なことを言い始めました。
「レンガ色の
「ヴェルンがいなければノシリアは魔法を使えないはずでは?」
「わたしの代わりになる魔法使いを
「あれあれ、なんか弱気じゃないですか?」
「あれはどうしようもない」
「
そうは言ってもヴェルンが敵になったらわたしなんて一瞬で大理石の下敷きですよ。
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