第40話
「だとすると……」わたしは問いました。「肝心のアロンの杖は?」
そうです。長い糸を手繰るはめになりましたが、わたしが知りたいのはこの杖です。そしてこの杖を狙っているアストラガルス同胞団です。
「杖は今もノシリアが持っていると考えて間違いないと思う。霊界に仕舞い込んでいるのだろう」
「となると……、杖が欲しい同胞団はノシリアを殺そうと考えるはずです。ノシリアは貴族の出だと言っていましたね? サイサロンで死んだことになっているノシリアは、生きていてどこかで貴族をやっているはずですよね。ヴェルンは知っているんですよね?」
「ノシリアの顔を知っている。どうやら貴族らしいということも知っている。それ以外には何も知らない。これは桃魔女リーニも同じだと思う。ノシリアの補佐を務めていたとはいえ、リーニはノイル隊の一員には違いない。そしてフノテンボガも自分の目の前で杖をふるうノシリアを見ているはずだ。くわえてリーニの記憶も手に入れた同胞団は今はノシリアがアロンの杖を持っていると確信するだろう」と、ヴェルン。
そうです。桃魔女リーニはフノテンボガが気を失っていた時間の分の記憶をもっていますから、同胞団の持っている情報も更新されたということになります。
「フノテンボガは気を失っていたので、ノシリアが貴族だということを知らなかったのでしょうね。もしかすると、あの時なんで十人が筏に乗っていたかも知らなかったかもしれませんね。もちろんノシリアの名と顔は思いだしたし、おそらくノシリアがお目当ての杖を持っているだろうことも想像できたが、フノテンボガにはノシリアの今の名前と居場所が分からなかったということでしょう」
「おそらくフノテンボガは桃魔女リーニが同じ筏に乗っていたことを思いだしたんだ」とヴェルン。「ノシリアに近い立場にいたリーニならば、ノシリアの素性を知っているかもしれないと考えるだろう。そしてリーニは同胞団にさらわれた。リーニはすでにヒプノタイザーに自白させれらた可能性が高い。リーニの記憶を手に入れた同胞団はターゲットを貴族に絞り込むことができるようになっただろうな」
この時にようやく気づきました。わたしの持っている情報が同胞団の持っている情報に追いついていたのです。
「ノシリアの
わたしは少し興奮気味なのですが、ヴェルンは意外とあっさりしていました。
「宮廷にツァズパニとシダラがいる。彼らにノシリアの正体を聞けば分かるだろう。ノシリアは被害者でもあるがあの事件を利用している共犯者でもあるんだからな。テロリストが宮廷人と連絡を取ることはできないし、下手に接触してお目当ての杖を隠されてはかなわないと考えるだろう。しかし、わたしなら連絡がとれる。彼らには言いたいこともあるが、とりあえずは桃魔女の安全を優先しよう」
「宮廷というとカノニューガですか? だとすると私がカノニューガに出向く必要がありますか?」
「ツァズパニとシダラも魔法にかけられていて記憶の欠落があった場合にはそうなるだろう。たとえばわたしの存在を忘れて居た場合、彼らに手紙を書いても、私など相手にしてくれないということもありうる。しかし手紙でも聞けば何かしらきっかけをつかめるだろうという気がする。ノシリアは事件の真相をネタにしてツァズパニとシダラを思い通りに操っていると考えるのが合理的だ」とヴェルン。
「手紙でも往復二日はかかりますよ。そうこうしている間に同胞団に先を越されるということはありませんか?」
「同胞団が今度は宮廷人であるシダラやツァズパニを誘拐すると? 拠点の無い帝都で廷臣を誘拐するのはさすがに無理だろう。魔法使いというだけで目立つ。ましてやテロリストがモニュマハイト貴族の血脈から全ての女性の顔を照合して回るなんて不可能だ。ナピはさっき、私たちと同胞団の持っている情報は同じだと言ったが、立場はわたしたちの方が有利だな」
「なるほど。そうかもしれません」
「そういうことだ。もちろん、今日明日の内にモニュマハイトの有力者たちが一堂に会するような式典でもあれば話は別だがな。そうしたらリーニに
「ならいいのですが……。いや、ありますね……」
「ん?」
「有力者が一堂に会するような式典……ある! あります!」
「あるのか?」とヴェルン。
「なんでヴェルンが忘れてるんですか!?」
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