第30話
あの後すぐに馬車で増援が来ました。増援といっても犯人のふたりは既に拘束されていて、現場は落ち着いていましたけどね。なのでわたしはそのまま馬車にのってポッセのデルワダ分駐所に連れていかれ、そこで話をしました。分駐所はわたしの所属するウンプラ屯所とは比べ物にならないくらい大きく、事務作業をしている人もたくさんいます。ここならいろいろな情報がありそうです。
わたしはそこで最初にゴーレムに襲われた時点からわたしの経験したことのほとんど――お嬢様のことやコケモモのことなど話せないこともありましたが――を話し、そしてわたしが気になっていたことを聞くこともできました。
まずわたしと一緒に拘束されていた桃色の魔女、素性はすぐにわかりました。リーニリーニ・モチモーマという低級
そしてアストラガルス同胞団。これは
「アストラガルス同胞団は魔法主義勢力だ。しかし直接お前をさらったのはユーストマ革命隊だ」
「その人たちは何を目指していて、どういう関係なんですか?」
「ユーストマ革命隊は大層な名を名乗っているが、山賊だ。金で動いただけだろう。アストラガルス同胞団はポッセには情報が無いが、この前お前たちと連れて帰ってきた役人の資料に名前がある。おもに国境の向こうで活動しているようだな」
「
「それは難しいかもしれないな。それが難しくなるように国境の空白地帯で活動しているんだ。それにこの地域には武装勢力が無数にあり、絶えず再編が起きている。少し前まで別の名前で活動していたグループが合併したり、分裂したりを繰り返す。構成員の特定は容易ではない」
「そんなにあるんですか? 治安わるすぎませんか?」
「どのグループが何しでかすか分からない不安はある。しかし無数の武装勢力がひとつに
「なるほど……。そのアストラガルス同胞団も武装勢力をまとめあげて、魔法主義体制の国家をつくることを目的としているわけですね」
「おそらくそうだろうな」と、カーキの魔女。
「アストラガルス同胞団はなぜ桃色の魔女リーニリーニ・モチモーマの記憶を必要としたんでしょうか」
「ナピにとっては自分が狙われた理由だからな。そこは気になるだろうな。それを知るにはまずはリーニの過去を調べてみる必要があるだろうな。リーニとその
「じつは、桃魔女リーニの記憶を消した人物についてひとつ心当たりがあるんです」
「そうなのか?」
「そのなんとか同胞団が、なぜわたしならばリーニにかけられた魔法を解けると確信していたのか。理由は一つしか無いように思います。わたしは過去にリーニのように記憶を消された人物の治療をしているんです。リーニにかけられた魔法を解除した時に確信しました。ひと月くらい前、ダルノーハ記念病院でわたしが担当したフノテンボガ
カーキの魔女は少し考えます。目をつむって首を傾け、情報を整理しているようです。
「その退役兵にかけられた魔法が解ける魔女、ナピナピ・アグラスならばリーニにかけられた魔法も解けるはず、と同胞団は考えた? 二人の記憶を消した人物は同一人物?」
「そうです。わたしは越してきたばかりでわたしを知っている人なんてほとんどいません。ピンポイントで私が指名される理由なんてそれくらいしか考えられません。そして、そのフノテンボガ何某さんはその
「何という名前だった?」
「忘れてしまいました」
「おい……」
「フノテンボガさん本人に聞けばわかるでしょう」
「そもそも、そのフノテンボガが同胞団の一員だとは考えないのか?」と、カーキの魔女。
「そんなこと……」
ありえないとは言い切れない。むしろそう言われるとその可能性が高いような気になってきます。
「お前の方で接触するつもりなら十分に注意しろ。不佞の退役兵の多くは帝国軍に拾われたが、隣国で戦争を続けているものも少なくない。――まあ、それもこっちで調査してみよう。調査結果はポッセを通して明日にでも知らせる。なにか思いだしたらまた教えてくれ」
自分でもいろいろ調べてみようと考えたのですが、一人で動き回るのは危険ですね。ヴェルンが協力してくれれば頼もしいんですが、捜査みたいのは苦手だとも言っていましたし。いや……。そういえば捜査、調査が得意そうなのが一人いますね。協力してくれるかどうか分かりませんが……。
「カーキの魔女さん。もう一つ気になることがあるんですが、通報してくれたのはどんな人でした?」
「通報を受けたのは事務だ。そこからわたしたちに連絡があった。わたしは通報者を見ていない」
わたしたちは、隣でわたしの証言をメモしている事務の人を見ました。
「黒い東洋風の魔法衣を着た幼い魔女でしたよ。先に現場に向かうって言ってましたけど……、現場に居ませんでした?」
「そうですか。たぶんわたしの知り合いです。心配いりません」
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