第10話
不測の事態が起きましたが、今回の仕事は石化の解除です。しかし具体的な場所を知っているホムが死んでしまったので少し弱りました。
裸の
「どうだ? 戻せそうか?」
「石化した人間なんて初めて見ましたよ」
わたしは石像の頬に手をあてて見ました。なるほど、ただの石ではないことが分かります。
「男性だからかそれほど強くない。でもたしかにこの人の魔法力を感じますね」
「そうだ。本当に石になったわけではなく、その人のエーテル体やアストラル体は周囲に影響を与え続ける。だから
「珍重される……。そういえば石化した魔法使いは東洋では高値で取引されると聞きますね」
「さっきの人影もゴーレムを使って石化した人間を運び去るつもりだったのかもしれないな」
ヴェルンが言います。
「なるほど……」
しかし、たまたま鉢合わせたというよりは待ち伏せをくらったように思えるんですよね。考えすぎでしょうか。なんにしても目的の石人間を見つけることができて一安心です。
わたしが今から石化を解くと伝えると、ヴェルンはわたしのすぐ隣に寄り添ってくれました。
「石化被害者は状況に混乱して危険な行動をとる場合がある」とのこと。
わたしは石人間の頬に手を当ててそれっぽいことを呟きます。
"生きた石を用いて霊の家に造り上げたまえ。唯一の者の奇蹟を完遂させたまえ……"
特に意味のない呪文を唱えると男性の石化はあっさりと解けました。石化を解いた瞬間、男性はぎょっとした顔をし、腰にぶら下げた短刀の
「心配いりませんよ。ポッセから派遣されてきました」
わたしはすかさず語りかけました。男性は後ずさります。よく考えたらわたしの衣服は血で汚れていますからね。あやしいですよね。
「あー、驚かせてすいません。わたしの血ではないので大丈夫です。あなたはここで石化していたんです。分かりますか?」
「いや、今バジリスクが……。あぁ、バジリスク!」
男性、事態が飲み込めた様子です。彼の困惑も当然と言えば当然です。石化している間は本人の感覚は停止しているわけですから、バジリスクと目が合った次の瞬間、返り血を浴びたライトブルーの魔女が目の前に現れたのです。
その男性はわりと肝が据わっていて、状況を飲み込むと私の手を握って「いやーありがとうございます。ありがとうございます!」と感謝を伝えてくれました。なんか軽いですね。考えてみれば石化している状態でさえ、表情には少し余裕がありました。こういう性格なのでしょう。
魔法使いだが魔法力は弱いという男性、サラマンダーを探しているところだったそうです。話を聞いてみると彼の石化期間は二日間でした。この森の中で石化した二日後に発見されるなんて奇跡のように思いますが、どうでしょうね。ヴェルンは森の中に拠点を持っているとも言っていたし、この一角に限って言えば治安はよく維持されているのかもしれません。ヴェルンは男性に尋ねます。
「サラマンダーを探してよくこのあたりをうろついているのか?」
「そういうわけではありませんよ。わたしの家はデルワダなので距離があります。でもずっと広告を出してるんですよ。サラマンダーを見たらご一報くださいってね」
「このあたりで目撃情報があった、と?」
「そうです。それで調査に来たのですが……、お恥ずかしいかぎりです」
そう言って男性は笑いました。
「このあたりは私も日常的に巡回している」と、ヴェルン。「見つけたら連絡しよう」
「助かります。ぜひよろしくお願いします」
森を抜けて道に出ると男性は自分で帰れるからと言って去っていきました。軽いですね。
「一応ポッセの屯所にも顔を出しておいてくださいねー」
と、お願いしておきました。本当はわたしがポッセのウンプラ屯所まで送るべきなのでしょうが、ゴーレムの一件で疲れました。二日間石化していた男性の方がよっぽど元気そうでしたね。
「服汚してわるかったね。ホムンクルスに洗わせよう」
とヴェルン。遠慮しようかとも思いましたが聞きたいこともあったので
「じゃあお願いします」
と笑顔で答えました。
▣
ヴェルンの小屋を訪れると、二体目のホムが出迎えてお茶を出してくれました。どこに居たんでしょうね……。しかしホムンクルス、いいですね。わたしも一体欲しいくらいです。わたしは汚れた衣装をホムンクルスにわたし、チュニックを借りました。わたしの服も錬成してくれよと冗談半分でヴェルンに頼んでみましたが、慣れ親しんだ自分の魔法衣ならば錬成できるけど、人の服は無理だとのことでした。アストラル体の関係でしょうね。わたしは自分の身体の一部のように感じている杖ならば
ヴェルンの小屋のオープンデッキに腰を落ち着けると、ヴェルンはわたしの杖を触らせて欲しいと要求してきました。
「こんな杖を使っているからあんな真似ができるのだな?」
「つる性植物のことですか?」
「出力も魔力容量も高い。戦時中は落雷に特化したエレメンタラーや投石に特化したサイコキネシストもよくこんな杖を使っていた」
「ヴェルンも似たような杖じゃないですか」
「
そこへ洗濯
「気づいてはいたが、ナピとわたしは魔力の色が近い。ストレスなく使えそうだ」
「人の魔力を勝手に使わないでもらえます?」
「身近な人の杖を確認しておくことはお近づきの挨拶みたいなものだ。時にはこれが生死をわけることもある」
だ、そうです。まあ、都会育ちのわたしは平和ボケしている自覚があります。
ヴェルンがわたしの杖を撫でまわしている間にいくつか質問してみました。ヴェルンによればホムンクルスは常に三体前後居て、ヴェルンの家と森の中にある拠点を行き来しているらしいです。先ほど一人死んでしまいましたから、また作るんでしょうね。ヴェルンはわたしと同じポッセのモニュマハイト
そのあたりも気になるところですが、わたしにとって今一番大事な話をふってみました。
「ヴェルン、わたしがこれを尋ねたことを口外しないでいただきたいのですが、アグリコラの花鳥紋について何か知りませんか?」
「アグリコラの
知っているがどこから話そうか思案しているような顔です。小屋の裏手ではホムンクルスのホムが洗濯の用意をしています。「あ、乾かないと困るのでつまみ洗いでいいですよ」と、ホムに伝えました。
そして、ヴェルンがゆっくりと話し始めます。
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