オニヤンマ & ジョロウ、両軍曹・夏の戦記

 今夏、ひそかなブーム(?)となった「オニヤンマの飾り」をご存じだろうか。その通り、オニヤンマそっくりで、もちろん実物大で、なかなか精巧なつくりだ。ミナキマサオが店頭で見つけたのは、おそらく話題になっていたアレそのものではなく類似品と思われるのだが、それでもなかなかの完成度だったので、買ってみた。安全ピンとストラップの両方が付いているので、取り付け方にも幅がある。


 これがなんで話題だったのか? それは、「虫よけとして効果的」との触れ込みであったからだ。人間にとって非常にうっとおしい、いくつかの種類の小さな虫にとって、オニヤンマというのは天敵であるらしい。なので、非常にそっくりなコレをぶら下げておくと、虫たちが恐れをなして近寄って来ない、のだとか。薬品を発散しているわけではないから、子どもに身に付けさせても安心(子どもの帽子に付けている画像を見たが、本物が帽子にとまっているようだった)。窓際に付ければ部屋への虫の侵入を防げる。……ということだ。なるほどねえ。発想の転換ってこういうことなのかな、と感心したことは事実である。


 ミナキは最初、これをベランダの物干しざお、窓の網戸近くに吊るそうかと企んだのだが、はたと思った。「オニヤンマにも天敵はいるはず。コイツを目がけて、雀とか鳥が集まって、ベランダをフンだらけにしやしないだろうか?」それはそれでイヤである。フンだらけじゃフトンも干せないじゃないか。そもそも本当に虫よけになってくれるかどうかわからないし。でもせっかく買ったんだしなあ……。

 悩んだ末、職場で使ってみることにした。オニヤンマ軍曹の持ち場は、ミナキの机、天板下。椅子に座ると脚が占拠することになる空間である。夏場、ここに蚊がいるのが一番うっとおしい。オニヤンマ軍曹が自然に飛んでいる体勢になるようセットし、脚の邪魔にならないところにぶら下げてみた。


 戦果? ワカリマセン(ヲイ)。だって、オニヤンマ軍曹ががんばったところで、虫の死骸が増えるわけではないのだ(それも困るが)。ただ、夏の間、職場で変な虫に脚をかまれなかったのは事実である。軍曹の戦果なのか、はたまた最初から虫がいなかったのか。判別できないが、まあ効果はあったかな、と思っている。


 実は……ミナキマサオ、オニヤンマと同じタイミングで、「ジョロウグモの飾り」も発見した。うたい文句はイワズモガナ……というやつだ。つい買ってしまった。ひっくり返すと、腹の部分の模様まで精巧に描き込んである。こちらも安全ピンとストラップがついているのだけど……こっちはブローチがわりに付けたがる人、あんまりいないだろうなあ。子どもなんか泣いて嫌がりそう(オニヤンマも嫌がる子はいるだろうけど、ジョロウグモよりは少ないと思う)。

 こちらの軍曹にこそ、ベランダを守護してもらうことにした。小さなクモを追い払ってくれることを期待して。ジョロウ軍曹、頼むぞ!


 翌朝……ジョロウ軍曹の足と足の間に、細いクモの糸が数本張られていた……。

 ……軍曹…………(涙)。


 秋に差しかかる頃。我が家のベランダの片隅に、2匹のジョロウグモが居住権を主張して住み着くようになった。これはこれで、小さい虫を捕獲してくれるので、あまり無碍なことはしたくない。それに、物干しには影響ない部分だ。なぜか物干しざおのある辺りには、ジョロウグモはやって来なかった。

 もしかしてジョロウグモには、縄張り仁義というやつがあるのだろうか。だから、ジョロウ軍曹を先住者と見なして、近づいて来なかったのかもしれない。そして中くらい及び小型のクモも、見かけることは激減した。だとしたら、やはりジョロウ軍曹も戦果を挙げたと見るべきであろう。


 だが、どうも小さいクモの中には目ざといというか、恐れ知らずなヤツがいるらしい。その証拠に、ジョロウ軍曹の足には今日も、細いクモの糸がくっついているのだから。ジョロウ軍曹、有能だが、いささか間が抜けているようである。

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