地球最後の日

 前回の続きのような、続いていないような、微妙に関係ある気がそこはかとなく漂う話をする。といっても、前回未読であろうとなんの支障もない。なぜなら前回に劣らず今回もばかばかしい話だから。


 御幼少のみぎり、ミナキマサオは中途半端な語彙の持ち主だった。だから見聞きした言葉をよく、脳内で勘違いした。今でいう「誤変換」というやつである。当時はパソコンどころかワープロも普及しておらず(存在はしたかもしれないが)、「変換」という言葉の意味もだいぶ違っていたと思うのだが、そんな補足はどうでもよい。

 この手の勘違いは誰でも当然のことだと思う。成長の過程に必要な失敗経験というやつだ。メジャーな例が「汚職事件→お食事券」といえるだろう。だから以下のような間違いも誰でもやっていると思うのだが、我が夫ピエール(仮名)によれば「いや、そんな勘違いするのはアナタだけだ」と激笑いされたので、世の真実を問いたい。


 ミナキの人生でキングオブ脳内誤変換は「成人の日」だと思う。幼稚園児くらいの頃か。子ども向けのカレンダーやスケジュールには当然、ひらがなで「せいじんのひ」と書かれていた。当時ミナキマサオは、光の国からぼくらのためにやって来た銀色巨大宇宙人戦士のシリーズにどハマリしていた(再々放送だか再々々放送だかわからないが)、純粋無垢な子どもだった。かくして純真なお子さまだったミナキは脳内で、「せいじんのひ」を「星人の日」だと思っていたのである。

 さあ大変だ。両手の先が巨大ハサミになっていて「ふぉふぉふぉ」と笑う日本を代表する宇宙人(どういう日本語だ)とか、手がフェンシングの剣やカギヅメになっていて赤色巨大宇宙人兄弟の故郷を滅ぼしなお狂暴な怪獣を操る血も涙もない全身黒タイツ宇宙人とか、そんなのが大挙して地球に攻めてくる日……だと、本気で思っていたのだから(誰が予告したのだろう)。だからニュースでアナウンサーが、ややなごんだ口調で「今日は成人の日です」と読むのを聞いて、「なんでそんなにノンキにしてるの、もうすぐ宇宙人がいっぱい攻めてきて、地球は滅亡してしまうのに! ……ああでも、ウ〇トラマンたちがたくさん助けに来てくれるなら、ちょっとラッキーかも……」などと、99%の生きた心地もない恐怖と、1%ながら揺るぎない期待と希望に塗りつぶされ、全身が凍り付く思いで過ごした1日だったのだ。当然ながら翌朝は、凶悪な侵略宇宙人らが暴れ回った形跡もなく、無表情なのにどこかお茶目な光の国の巨大宇宙人たちが応戦した名残もなく……みんなどうして平然としているのだろうと、本気で不思議でたまらなかった(その割に夜はぐっすり寝てたんだな)。

 ……この誤解が解けるまで、2、3年かかった。当然「成人」という言葉の意味を学ぶまで、である。


 同音異義語。

 皆さんだって、ありましたよね?

 ワタシだけじゃないですよね?

 1月のあの日を「星人の日」だと思った時期、ありましたよね? ね?


 ※補足。

 血も涙もない全身黒タイツ宇宙人がよくわからない人は、「ウル〇ラマンレオ」をネットで検索してみてね❤

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