鎮痛記ガングリオン

 あからさまなタイトルですみません。オチのあるタイトルにしようとは思ったのですが、これしか思いつけませんでした。


 本題。

 ご存じの方もおられると思う。ガングリオン。手首とかにぼこっと出てくる、ちょっと異様なモノ。私がこれに悩まされたのはもうだいぶ昔だが、周囲の人からは「ああ、それ軟骨だよ」と言われていた(ひょっとして年齢がばれるのだろうか)。そう言われりゃ軟骨かもな、と納得しそうな出かたをしているのも確かである。

 当時私は、仕事でパソコンのキーをたたきまくっていた。最近なんだか手首が痛いなと思っていたら、ある日ふと、いつしかそこにできていたモノにぎょっとしたのである。利き手である右手首に、ぼこっ、としたふくらみがある。なんだコレ。気持ちわるっ。周囲の肌は荒れてはおらず、ただ奇妙な出っ張りができている。見かけが気持ち悪いなあ、ですめばまだしもだが、痛いのには困った。しかも手の甲がわである。キーボードをいじっていれば嫌でも目に入る。そしてちょっとした拍子に痛む。困る。紆余曲折の末、形成外科? 整形外科? 忘れてしまったのだが、とにかく受診することになった。以後しばらく、1、2年に一度はこれの治療に通院することになる。

 当時私が聞いた説明では(たぶんわかりやすくかみ砕いた表現にされているのだろうと思うが)ガングリオンは、関節部分に袋状のものができてしまい、そこに老廃物が溜まって、ぼこっとしたふくらみになる、という原理らしい。これを書きながらネットで改めて調べたところ、「関節や腱などの組織の損傷により、できてしまった袋状の内部に、いわゆる潤滑油にあたる滑液が流れ込んでゼリー状になったもの」ということだ。正確には腫瘤しゅりゅうだ。また筋肉や神経などを圧迫して痛みが生ずることもあるとか。かいつまんで書いたので、詳しくは各自で調べていただきたい。

 治療法としては、「吸引」である。なんのことはない、患部に注射器をブッ刺し、中身を強制的に吸い取るのだ。痛い。めっちゃ痛い。そして先生は、吸引した中身を私の目の前で、ビーカー状の容器(つまり透明)に、注射器から押し出して見せてくれる。にるにると出てくるそれは、まさにゼリー。ゼラチンと表現した方が近いか。ゼリーと聞いて思い浮かべるほどのハリはない。注射器の先端から押し出されると、そばからにるにる崩れて、容器に沿ってでろでろと広がっていく。ゲル状というのか。あまりに無色透明で驚いた。人体から出てきたのに、血液が混じっていないのは新鮮な驚きだった。吸引された手首は青あざになった。だが神経の圧迫がなくなったので、日にちが経つうちに痛みも青みも薄れていった。ああ助かった。

 吸引治療の欠点は、中身を吸い取りはしたものの、袋がそのまま残っているので、つまり再発しやすいことだ。案の定、私はしばらく能天気に仕事をしていたが、忘れた頃になんだか手首が痛いぞと感じるようになり、気が付くと……エンドレスなループである。「ほっといたら自然に治るよ」とも聞いたが、この利き手の痛みはいかんともしがたく、数年間はこれに悩まされた、はずだ。そして受診し、にるにると出てくるゲル状の物質に静かに驚いていた。たまに、針を刺す位置に乱れがあったか、わずかに血液が混じってしまうことがあり、「この方がかえって人体っぽいなあ」と変な感動をしたことを覚えている。

 手術で袋を取り出してしまう、という手もある。ただ私の場合は「手首に傷が残る」「再発は絶対にないとは言い切れない」と聞いて、しばらく悩むことにした。傷が残るといっても、再発率はずっと下がるわけで……と考えているうちに、いつの間にかガングリオンが出て来なくなった。というか正確には、出てくる周期が長くなったのだ。しかしそれも、放置しておくといつの間にかなくなっていた。

 ガングリオンが出てきても、痛みがあまりなくなったため、放置ができるようになったのだ。あの頃の痛みは七転八倒ものだったが。そしてどうもガングリオンは、出やすい年代があるらしく、私はそこを通り過ぎたから出なくなった、という事情もあるようだ(もちろん、その年代を過ぎれば決してできなくなる、というわけではない)。

 でもガングリオン、どうしてできてしまうのか、発生のメカニズムは解明されておらず、予防法もないらしい。ただ発生してしまうと、手や指を使うことで大きくなっていくという。言われてもね。手や指、使わないわけにはいかんし。

 カクヨムを利用されている方の中にも、悩まされている方、おられるかもしれないですね。どうしても痛むなら、吸引治療してみるといいかもしれません。お大事になさってください。

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