不法居住者

 検索していただければわかるのだが、雀という鳥は案外したたかで、おいおいおいと言いたくなるところに巣を作る。いや本当だ。街なかの、「いやアンタなんでそんなところに」というツッコミ待ちとしか思えないところに住んでいるのだ。ここでぐちゃぐちゃ書くより各自で検索していただいた方が早い。たとえば、ネタ割れ気味だが「雀 巣 信号」とか入力して画像を見ていただくと、知らない人はびっくりすると思う。私が遭遇したケースは、それに比べればさほど奇抜とは思えないところだが、それでも立場上、当世の芸人風に「なんそれ」と言いたくなるケースであった。


 当時、我が一家の住まいは、とあるアパートにあった。1階ではない、とだけ明かしておく。入居するときにエアコンの設置工事をしてもらった。壁に開いた穴に、エアコン本体と室外機をつなぐパイプを通し、穴をふさぐ。その、ふさぐ工程にミスがあったのか、それとも時間が経つうちに劣化してしまったのか、どうやらふさいだ部分に小さな隙間ができてしまったのだ。

 ある年の冬の終わり、ここに、雀が住み着いた。

 つまり、ある部屋のエアコンの裏側に、雀が巣を作ったのである。

 そして……エアコンの裏側で、雛がかえったらしい。

 エアコンがシーズンオフになった時季で幸いだった。だが昼間はやたらめったら、エアコンの裏からチュンチュンピイピイと聞こえるのである。壁をバンッとやると鳴きやむのだが、それでも数分するとやっぱりピイピイとなる。

 大音響でやかましいというほどではない。が、気にはなる。落ち着かない。

 うちは1階ではなく、ベランダからひょいとのぞける位置でもなく、梯子も届かないので、素人がうかつに現状確認することさえためらわれる状態である。

 追い出したいのだが、雀というのはやたらと駆除してはならないらしい。とはいっても、生活に支障をきたす分には救済措置が欲しいよなあと思わなくもない。今は春だからまだいいが、この状態でエアコン使いたくないな、このまま夏になったらどうしよう……と、暗澹たる思いのまま、春は過ぎていった。


 しかし。はかったようなタイミングで、突然雀の鳴き声が、ぴたりとやんだのである。どうやら雛が成長し、巣立ったらしいのだ。

 数日間待って、鳴き声がまったくしないことを確認し、業者に依頼して後始末をしてもらった。業者がぺいっとたたき出した巣は、マンガにあるような絵そのままの巣だった。あの巣の描写ってギャクマンガみたいな誇張じゃなくて、本当にあんな巣だったんだ、とオカシナところで納得した(マンガ描いている人スミマセン……)。孵化しそこなった卵もなく、本当に、完全に、一家が巣立った後だった。壁の穴の隙間はふさぎ直してもらった。ああよかった。これで心置きなくエアコンが使えるようになり、人間一家も胸をなでおろしたのであった。めでたしめでたし。


 ……エッセイのタイトルを「大自然の息吹」とでも変更した方がいいのだろうか。

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