大自然・非情なる掟 ※閲覧注意
※注意:虫とか苦手な人は、今回は読まずにパスしてください。お食事中の方にも閲覧はおすすめできません。
これはある朝、出勤した直後の我が夫クリストファー(日本人・あくまでも仮名)が「エッセイのネタになる?」と送ってきてくれた、ある光景の中継レポートを、私が書き起こしたものである。つまり私がこの目で見たものではなく、また聞きであることをご了承いただきたい。題して「大自然・非情なる掟」。
……その朝クリストファーは、行きつけのコンビニ駐車場に車を停めた。8月も半ばを過ぎ、まだ朝から気温は高いといいながら、お盆を越えればその暑さからどこか芯も抜け、秋が静かに歩み寄りつつあることが、そこはかとなく感じ取れる。
店に足を向け、ふと彼はその光景に意識を奪われた。
雀。コンビニの駐車場の片隅に、2羽の雀がいた。コンビニ近辺というのは雀にとって、外せない餌場なのだろうか。丸々と肥え太った2羽は、あたかも茶色の小さなボールと見まごうばかりであった。
その2羽が……争っているのだ。何かをめぐって争っている。食べ物だ。
丸い2羽の雀が奪い合う食べ物は、お菓子のかけらかパンくずか、はたまた唐揚げの揚げかすか。やはりコンビニの周囲は……と思いかけてクリストファーは、二度見せずにはいられなかった。
両者が所有権を競うそれは、1匹のバッタであったのだ。バッタ。やはりタンパク質は活きの良さが命なのか。
三者の食うか食われるか、文字通り生存権をめぐる死に物狂いの闘争に、彼は己を見失い、ただただ呆然と見守るばかりであった。バッタにとってみればそれこそ命の分水嶺である。どちらにも食われるわけにはいかぬ。だが2羽の雀とて戯れにバッタをもてあそんでいるわけではない。今日この後食べ物にありつける保証はないのだ。今こそ貴重な食事の機会、折しも懐に跳びこんできた新鮮なタンパク質、奪われてなるものか。隙を見つけて逃げ延びたいバッタ、させじと必死にクチバシで攻撃しつつライバルを全力でけん制する雀。まさに命のぶつかり合い。たたみかけたるクチバシを
命がけの闘争は終わった。我にかえったクリストファーはコンビニ店内で買い物をすませた。再び駐車場に出てくると、2羽の雀が片隅に戻ってきていた。戦利品のバッタは雀の腹におさめられ、もう1羽もちゃっかりとお相伴にあずかった模様であった。
以上、大幅な脚色を加えはしたが、現実に繰り広げられた非情なる大自然の闘争ドラマであった。
……クモといい、なんでこんな話ばかりになってしまうのだろうか。
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