スパイダーパニック in 車 ※閲覧注意

注:蜘蛛クモが苦手な方は、今回は読まずにパスしてください。


 もし、あなたがクモ(スパイダーの方)にあまり抵抗がない、というのであれば、「アシダカグモ」を検索して、画像で見てほしい。かなりデカイので注意。検索しなくても知ってる、という方は、頭に思い浮かべてほしい。

 では、想像してみてほしい。あなたが車を運転している最中、ソイツが足もとをモゾモゾ動いている、という図を……。

 いや、想像ではない。先日、私のすぐそば、というか足もとで、実際にあった光景なのである。


 用事をすませた帰り道、運転していると、助手席に座った家族が、突然悲鳴を上げたので、危うく急ブレーキを踏むところだった。足もとにでかいクモがいると言う。運転中ではどうにもできない。赤信号で止まったときにのぞいてみたが、運転席と助手席の間に設置された、足もとの小物入れに邪魔されてよく見えない。ただ、しがみつく脚が1本だけ見えた。これが脚ならかなりデカイ。全部の脚を広げたら、私のてのひらと同じくらいになりそうだ。褐色の脚で、ジョロウグモとは違いそうである。道路沿いのパーキングに停車した。このときにはもうクモは隠れてしまっており、発見できなかった。仕方なくそのまま帰宅することにしたが、家族は後部座席に避難してしまった。私は避難できない。まあ毒のあるクモではあるまいと楽観的に見て運転した。家族の手前、運転者がパニックになるわけにはいかないし。ここに夫がいれば「ああっ助けてぇアナタぁ~(きらめく涙)」とか言ってすがりつくところなのだが、いないのだから仕方ない。とはいえ、あんな大きさのクモが足もとをごそごそしているというのは、……落ち着かない。帰宅して車を降りたときには、やはりクモは発見できなかった。

 夕方、夫に「どうかお力をお貸しください勇者様(時間が経っているので涙は省略)」と話すと、火バサミと殺虫剤を装備して、勝手知ったるダンジョンへと、大型クモ退治に乗り込んでくれた。しかし夫は、問題のクモを見かけはしたものの、捕獲できず隠れられてしまい、手を尽くしても追い出すことができなかったので、殺虫剤を噴霧しまくって引き上げてきた。ところが翌朝、夫が再度ダンジョンにおもむいたところ、相手は床に転がって天に召されていたそうな。殺虫剤が効いたのだろう。火バサミでつまみ出し、自然へとかえっていただいたということだ。かくてダンジョンには平和が戻り、家族は安心して座ることができるようになった。


 後になって「コイツかもしれない」と行き当たったのが、前述の「アシダカグモ」であった。調べると、網を張らないタイプのクモであり、どうやら益虫で、かの悪名高き家庭内害虫を食ってくれるのだそうである(想像注意!)。このため、あえて家の中に放し飼いという人もいるらしい。申し訳ないことをしてしまったが、やはりあのまま車にいられては、ちょっと困る。益虫とはいえ運転中に足に乗られでもしたらいい気持ちはしないし、嫌がる家族もいるし、車内ではろくな餌もなかろうし、背もたれやクッションの間に隠れているところを知らずに座って「ぷちっ」とかなったら目も当てられない。追い出そうにも捕まってくれなかったのだから、やむを得ない仕儀であった。冥福を祈る。


 それにしてもどこから入り込んだのだろう。人間や荷物にしがみついて、とは考えにくい。床下とかボンネットの中を通じて紛れ込んだ、とでも推測するしかない。


 ……心ならずも奪ってしまった命にふと、思いをはせた、今年のお盆であった。


 なお、今回のタイトル、なぜ車だけ日本語にしたのかというと、語呂的に美しいとか、タイトル全体の語感が絶妙に残念な感じでスケール感が演出できるとか、そういった筆者の深慮遠謀がはたらいた結果である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る