第8話 

 バルドゥルとアメリアを巡る熾烈なバトルを繰り広げていたら、エリーゼがやってきた。

 いきなりの王女の登場にバルドゥルとアメリアはポカーンと口を開けた。

 そりゃそうなるよね。普通王女がこんな下々の小競り合いに顔を出すわけがない。

 いくらアメリアが話題の重要人物だからって、彼女本人が会いに来る必要はないのだ。


 とりあえず、俺はため息を吐きそうになるのを我慢しながらエリーゼに問い返した。



「殿下。ちょっとしたじゃれ合いをしていたんですよ。殿下こそ何用でございましょうか」


「あら? 名前で呼んで下さらないのですか?」


「……エリーゼは何の用で来たんだ?」


「はい! 実はですね、遠くからクラークさんが困っている様子が見えたので、我慢できずに来ちゃいました!」



 来ちゃいました! じゃねーよ!

 なんで来ちゃうの?

 俺がお前と関わりあるとバレたら皆に避けられるだろうが! 

 せっかく友達出来たのにこれからボッチになったらどうすんだよ!

 心配してきてくれるはいいけど、もっと手段を考えて!


 

 そんなツッコミを内心でしていると、 彼女は「えへへ」と照れながら笑う。

 そして、「ダメ、でした?」と上目遣いで問うてきた。


 

 ……。



 わざとやっているのか? あざとい仕草で男を騙して許してもらおうとかそういう算段なのか?

 だが俺には効かん。俺には任務で鍛えた鋼の精神があるのだ。

 任務を達成するために必要ならば敵を殺す。

 そう、俺はそういう冷酷な男だ。


 気を取り直して任務について考えよう。

 とりあえず、この際エリーゼが俺に近づいてきたことは良しとする。

 過ぎたことは仕方がないからだ。頭を切り替えて次の作戦を考えよう。

 とはいえ、次の作戦は既に思いついている。俺とエリーゼが仲良くなることに失敗したのなら、エリーゼがアメリアと仲良くなる方向で作戦を推し進めればいい。そのおこぼれで俺もアメリアに近づけるようになれば万々歳だ。

 アメリアが王女と仲がいいことが知れ渡ったら、アメリアに同じ地位の友達は増えなくなるかもしれないが、彼女自身の安全と国の秩序の前では些細なことだ。

 そう考えると、エリーゼの行動はファインプレーだったのかもしれないな。

 よし、この方向で作戦を進めるぞ。


 

 ……あれ、なんで俺はエリーゼを擁護するような考えをしているんだ。 

 まあ、いいか。



 俺が務めてクールに思考していると、俺とは対照的にクールじゃないバルドゥルが話しかけてきた。



「で、殿下。あの、その、お二人の関係をお伺いしても?」


「……ええっと」



 そこでエリーゼがバツが悪そうにチラチラとこちらを見てくる。どうやら自分がやってしまったことに今更ながら気付いたみたいだな。別にもう過ぎたことだからとやかく言わないつもりだが。

 そして、彼女がチラチラとこちらを窺っていることにバルドゥルも気付いたんだろう。彼もつられてこちらを見た。

 

 仕方がないので俺はバルドゥルの問いに答えることにする。



「恐れ多くも、エリーゼとは交友関係を持たせてもらっている」


「なっ!?」


「驚くのも無理ないが、これは事実だ。こうしてタメ口で話しても許されていることが証拠と言えば証拠だな」


「……チッ。そうかよ。ならしょうがねぇな」



 バルドゥルはそういうと、後ろに引き連れた子分らしき連中と共に会場の方へと引き上げていった。

 ……エリーゼとの交友関係をチラつかせたらとりあえずは帰るだろうと思ったが、正解だったな。王女が出てくるなら親玉に判断を仰ぐべきだと奴も判断したんだろう。あんなチンピラみたいな態度の奴だが、考えなしってわけではなさそうだ。


 一難去ったことに安堵した俺だったが、ふと見ると、エリーゼの姿を見たアメリアが少し怯えた表情を見せていることに気が付いた。


 しかし、エリーゼが邪気のない声で彼女に話しかけると、アメリアの緊張は段々溶けていき、最終的にはこれまた邪気のない笑みで「お友達になりましょう!」というエリーゼの一言がきっかけで彼女らは友人関係になるにいたった。

 傍から見てもアメリアが怯えている様子はない。実家のボスの娘が相手から「お友達になりましょう!」なんて言われたら怯えてもおかしくない気がするのだが……やはり彼女のコミュ力は頭一つ抜けて優れているらしい。



 ……俺のコミュ力が弱ってわけじゃないと思いたい。





◇ ◇ ◇




 あの後、新歓の会場を出た俺達は、学校内にあるカフェに寄っていき、そこで任務についての情報共有を行った。

 本当はエリーゼに頼るつもりはなかったのだが、もはや彼女なしで作戦を進めるのは不可能ではないとはいえ困難な状況だ。なので彼女にも任務に全面的に協力してもらうことにしたのだ。


 全てを聞いたエリーゼは「もう、何で最初から教えて下さらないんですか?」といってむくれていた。彼女曰く、「相談してくれればもっといい方法を思いついたかもしれませんし、いざとなった時に連携できなくて困ることがないですよ?」とのこと。

 エリーゼが暴走しないように余計な情報を与えないつもりだったのだが、その味方を信頼しない姿勢はあまりよくないかもしれないと思った俺は、エリーゼに謝罪を込めてショートケーキをおごった。彼女はケロリとすべてを忘れて機嫌が戻った。なんてチョロいんだ!


 そんなわけでその日はエリーゼと別れて帰宅したのである。




 さて、そんな新歓の日から数日が経過した。

 その間、履修をベン達と一緒に組んだり、エリーゼとアメリアのお茶会に付き合ったりなどしたが、特にこれといった問題が起こることはなかった。

 そして今日は初めて授業が開催される日。俺は早朝に寮で起き上がるとベン達と共に教室へと登校した。


 ガラリと教室を開けてみると、既に何人かの生徒が着席していてチラリとこちらの様子を見ていた。


 しかし、すぐに視線を逸らしてしまう。

 ベンと仲良く話していたはずの人達でさえ、ベンに視線を向けることはなかった。

 

 ……この同級生たちの反応は明かに俺とエリーゼのせいだろう。エリーゼと仲の良い、俺と仲の良いベン達に近づくのが怖い、面倒だと思っての行動に違いない。



「……なんか。悪いな」


「あはは。別に分かっていたことだしいいよ。しばらくしたらこの状態も元に戻ると思うし大丈夫だって」



 なんとなく罪悪感が湧いてベンに謝ると、大したことはないと言って気を使ってくれた。

 本当に彼はいい奴だ。いい奴すぎて逆に心配になることもあるけれど、まあ、それも周りがフォローしてやればいいのだろう。

 彼の優しさに甘えなないようにしなければな。


 俺がそんな風に覚悟を改めながらホームルームに参加する。


 しばらくしてホームルームが終わり、最初の授業が行われる教室へと向かう。


 本日最初の授業は——『初級魔法実践』か。


 まあ、無難に頑張ろう。





〇 〇 〇


 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 更新、かなり遅れてしまいましたね……すみません。

 なるべく頑張って更新するつもりですので、今後とも本作をよろしくお願いします。




 

 



 

 

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最強騎士の学園生活 ~身分を隠して学園に入学したけど、次から次へと貴族達が問題を起こして忙しいんだが!?~ 日野いるか @Iruka-Hino-Crafts

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