第7話 来訪者

【お知らせ】

 第6話を一部修正しました。話の筋は変わっていませんが、細かい部分が変わっています。以下変更点を上げておきます。


・アメリアに接触する今回の作戦の重要性について説明を追加しました。

・エリーゼに脅してもらってアメリアを引き留めるという方法は不可能だと判断し、文章から削除しました。


 急な変更ですみません。お知らせは以上となります。それでは今後とも本作をよろしくお願いします。




 ◇ ◇ ◇




 アメリアの目の前に辿り着いた俺は、彼女に話しかけた。

 しかし、彼女は震えるばかりで話にならない。俺の方を見て「こ、来ないでください!」とか「い、嫌です!」などとばかり言っており、まともな会話は期待できそうにない。

 

 それでも俺は諦めず、彼女に話しかけた。

 先ほども言ったように、アメリアと良好な関係を築けるかどうか。それは任務の成否に関係してくる。

 暴力から彼女を守るのは部下でも出来るが、政略から彼女を守るのは俺しかできないからだ。

 なんとしても港湾都市が他派閥に奪われるのを防がなければならない!



「別に君に危害を加えようなどとは考えてない。何を恐れているのか分からないけど、俺は君を守るために来たんだ。勘違いしないでくれ」


「し、信じられません……!」



 しかし、彼女は俺の言葉を否定する。


 どうしたものか。何を勘違いしているのか分からないが、彼女は俺が危害を加えると思い込んでいる。

 資料にある彼女の情報には特に心当たりのある事情は読みれないのだが……。

 

 身分を明かして任務の詳細を伝えれば、彼女に危害を加えることはないと証明できるだろうが、陛下に禁止されている以上それは難しい。

 さて、どう乗り切るべきか?



 そんなことを考えていたその時だった。



 アメリアが大きく息を吸い始める。

 何をするのかと一瞬思うも、俺はとっさに考えを改めた。

 あれは叫ぶときの予備動作。



 あいつ、助けを呼ぶ気だ!



 俺はそれを見て、一瞬迷った。

 このままアメリアが助けを呼べば、俺は変質者扱いされるに違いない。仮にも俺は男爵令息だが、彼女は子爵家の令嬢だ。きっと彼女の言い分が優先されるだろう。

 そうなると、俺が今まで築き上げてきた信頼が崩れる。ベンやゲルト、ロッテ達との青春はそこで終わり、俺は学園でぼっち生活を余儀なくされてしまうかもしれない。

 しかし、叫ぶのを多少強引に止めてしまえば、周りに変質者扱いされずに済むかもしれない。友達を失わずに済むかもしれない。

 だが、その代わりアメリアの信頼は完全に失われ、任務の成功率は著しく下がるだろう。


 

 ————友達か。任務か。


 どうする? 俺!



 迷いは一瞬だった。

 俺は気付いたら、彼女の両足を『竜鱗』で地面に固定し、そのまま同じ要領で両腕と口元を拘束していた。

 そして、彼女を膝を折り、しゃがませたうえで上から押さえつける。

 すべては無意識のうちだった。

 


「ふごッ!? ふ~~~!」



 アメリアの呻く声で我に返った俺は、自分のやってしまったことを認識し、そして後悔した。

 ……ああ、これで任務は成功から大きく遠のいた。俺は陛下の下で厳正な処罰が下されるだろう。学園には通い続けられるだろうけど、謹慎処分くらいは言い渡されるか。

 そんなことを考えている間に俺はアメリアに言うべき言葉を考える。

 とりあえず、やってしまったものはしょうがない。

 まずは彼女に大人しくなってもらって、話を聞いてもらう派ねばならない。


 そう考えた俺はアメリアの耳元に口を寄せる。

 そして、穏やかな口調で彼女に話しかけた。



「とりあえず、暴れないでもらえるか? そうすれば君に危害を加えない」


「ふぅ?」


「俺は君を貴族達から守るために君に近づいた。本当だ。……今から拘束を外すが、暴れないと約束してくれるか?」


 

 俺がそういうと、彼女はしばらく迷った後、こくりと頷いてくれた。

 俺はゆっくり彼女を立たせ、『竜鱗』で作った拘束を解く。


 

 …‥拘束を解いても彼女は暴れる気配はなかった。

 ただ、俺を見て怯えた表情をしているだけだ。逃げることも助けを呼ぶことも叶わないと悟ったのだろう。

 俺はその様子を見て、少し罪悪感を覚えた。ていうか、何で俺はこんな脅しみたいなことをしているんだろうか。自分が情けなくなってきたぞ……。


 自分の不甲斐なさに呆れた俺だったが、そんなことをしている暇はない。

 会場にいられる時間は残り30分ほど。アメリアの俺に対する印象は最悪だろうが、誤解を解くためにもまずはアメリアの事情を問いたださねば。


 そう考えた俺はアメリアに問いかける。



「アメリアさん。約束した通り俺は君に危害は加えない。だから、君がなぜ怯えていいるのか事情を話してもらえるか?」


「え……?」


「事情を聞きたいんだ。俺には君に怯えられるような事情はないと記憶しているんだが、その辺をいま一度確かめたくてな」


「は、はぁ」



 俺がアメリアに事情を聞きたい理由を説明をすると、アメリアは困惑しながらも口を開きかける。

 

 しかし、その直後。



 周囲がざわざわとし始めた。



 俺が振り返るとでは、生徒達の視線が一点に集まっている。

 

 その視線の先には、こちらに向かって歩み寄ってくる男子生徒の集団が見えた。

 その先頭に立つのは長めのダークブラウンの髪と瞳を持つ男子生徒。

 彼はポケットに手を突っ込みながら、こちらに向かって睨みをきかせていた。

 


「ヒィィィ!」



 その睨みに怯えたアメリアは情けない声を出して壁に張り付く。

 そんなアメリアの近くまで来た男子生徒は、彼女に対して乱暴に語り掛けた。



「アメリア嬢。久しぶりだな。バルドゥル様が来てやったぜ」




 ◇ ◇ ◇




 乱暴な口調でアメリアに語り掛ける男子生徒の名は、バルドゥル・デーゼナー。

 王宮派とは別の派閥である『公爵派』に属するデーゼナー伯爵の次男で、自信溢れる活発な性格だと噂されている。

 しかしこの様子を見ると、自信家っていうより傲慢という言葉がぴったりな気もしてしまうのだが……まあ、それは今は関係ないだろう。


 彼はアメリア嬢から視線を話すと、俺に顔を向ける。

 下から上まで一通り眺めてから、最後に笑って「ふん」と鼻を鳴らした。



 ……イラっとしてないよ? うん。決してイラついてなんかない。

 


 俺は決してイラっとしていない心を落ち着かせながら、バルドゥルの方を向く。

 何を話そうか迷っていると、彼の方から話しかけてきた。



「お前、アメリアに何の用だ?」


「……いや? 彼女が一人で寂しそうにしていたから、友達になろうとしていただけだが?」


「そうかそうか。お前はなかなか優しい奴だな」



 バルドゥルはそういって、笑顔で俺の肩に手を回す。

 そして俺の顔に自分の顔を近づけると、途端にその顔が威圧するようなものに変わる。

 そして、彼はドスの効いた声で小さく呟いた。



「失せろ。男爵ごときが俺のシマを荒らすな」



 それを聞いたアメリアが「ヒィィ!」とまた小さく悲鳴を上げた。

 しかし、俺は動じない。たかが伯爵の次男坊の睨み程度でビビるほど柔じゃないからな。

 俺は努めて冷静に彼に返答の言葉を考える。


 彼の言葉やアメリアの態度から察するに、アメリアが怯えていた対象はこいつらで間違いないだろう。

 そう考えると、バルドゥルはアメリアに何らかの働きかけをしていたと考えられる。そしてそれはアメリアにとって恐怖に値するものだったのだろう。

 それは何だろうか? ……考えてみるがその内容までは分からない。

 しかし、アメリアに危険が迫っているのなら見過ごすことはできない。俺の任務は彼女を守ることだからだ。

 

 そこまで考えた俺は、バルドゥルに返答した。



「無理だと言ったら?」


「ああ? 分かってるだろ? てめぇの親族諸共吹き飛ばされたいのか?」


「おお、怖い。でも忘れていないか? うちには一応強力な後ろ盾がいるんだが」


「ハッ! その程度がどうだっていうんだ? 俺にはもっと強力なバックが付いているんだよ。分かったらさっさと失せろ」



 彼はそう言ってまた鼻で笑った。


 一瞬イラっとしたが、すぐに冷静になる。

 落ち着け、今すべきことは奴から情報を引き出すことだ。アメリアとコイツの関係をはっきりさせないと、どう動いたらいいのかもわからない。

 俺は慎重に言葉を選びながら彼に小声で話しかけた。



「分かった分かった。君のシマとやらには手出ししない。確かに彼女が可憐で美しいと思ったのは事実だ。君の気持はよくわかる」


「お、おい。何を言って……」


「だが、別に俺はそういう下心で彼女に接触したわけじゃないんだ。本当にただの男友達として彼女の助けになろうと思ったんだ。それも貴殿はダメだというのか?」


「なっ!? ちげーよ! お前何勘違いしているんだ! 俺は伯爵家次男として貴族の付き合いをしているだけだ! お前の言うような下心は微塵もない!」



 バルドゥルは顔を真っ赤に沸騰させてそう言った。

 ついでにアメリアも「あわわわわ……」と言いながら顔を真っ赤に差せていた。彼女は褒め慣れていないのかな?

 

 とはいえ、これで奴の立ち位置が分かった。

 奴の言葉が真実なら、奴はアメリアとの関係を貴族の付き合いと考えている……つまり、アメリアに政治的に接触しているっていうことだ。

 ということは、アメリアを自分達の勢力に取り込もうとしていることになる。


 そう考えると、俺が取るべき行動は、奴らの排除。

 アメリアに近づけさせないことだ。

 とはいえ、すぐにそれを実行するのは難しい。

 まずは奴らの動向を探る所から始めよう。


 俺はそう結論付けると、再びバルドゥルに話しかける。



「そうなのか? では、貴殿のシマを荒らさない程度にアメリア嬢の友人になるのは良いのか?」


「ああ? ダメに決まってるだろ?」


「……なぜだ?」


「お前の言葉を信用できない。コイツと友達になると言っておきながら、実際には別の付き合いを始めるかもしれないだろ?」


「男爵ごときは敵ではないんじゃなかったか?」


「屁理屈いってんじゃねぇよ。とにかくお前はコイツに近づくな。近づいたらどうなっても知らねぇぞ」



 そういって、俺達は睨み合いを始める。

 しかし、今のところ分が悪いのは俺の方だ。

 俺の後ろについているのは陛下だが、それを公にすることはできない。何故かというと俺の身分がバレるからだ。

 陛下自身が動いてアメリアを引き留めるならば、もっと別の策を用いるはず。寄り子の関係でもない俺を介してアメリアに接触するのは不自然すぎるのだ。

 かといって、俺の寄り親を頼ってみても、寄り親の爵位は侯爵だ。普段なら十分強力な後ろ盾なのだが、それを分かっていて大きな態度をとるということは、バルドゥルの背後にいる人物はおそらく公爵レベルの実力者ということになる。

 このまま睨み合っていても時間が過ぎるだけだが、打開策を見つけようにも貴族の力の前にはどうしようもないな……。アメリアの印象も最悪だろうし、今回の作戦は失敗か。

 まあ、作戦が失敗しただけで、任務自体はまだ失敗じゃない。気を取り直して作戦を練り直そう。


 そんな風に考えて、アメリアと友誼を結ぶのをあきらめかけたその時だった。



「何をしているの? クラークさん」



 透明感のある凛とした声が響いた。


 振り返った先に居たのは、金髪をなびかせた美少女。

 宝石よりも美しい碧眼は俺の瞳を覗いていて、その愛くるしい顔は不思議そうに傾けられている。

 こんな美少女はこの世に一人しかいないだろう。

 

 そう、俺の目線の先に居たのは、エリーゼだった。






 ……なんで来ちゃったの!




 〇 〇 〇


 手が滑って更新ボタン押してしまいました……。後日見直しをしますので、誤字脱字があったらすみません。

 

 そして、ここまで本作をお読みいただきありがとうございます。

 よければフォロー・評価・応援などをよろしくお願いします。

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