第6話 新入生歓迎会


 ホルガ―から任務の話を聞いた後、俺はそのまま寮に向かってベン達と合流した。


 寮は相変わらず赤レンガの建物で、中も結構綺麗だった。規則とかも特段厳しいものはないみたいだ。

 

 ちなみに、相部屋はベンとゲルトの二人になった。なんでもクラスメイト同士であれば部屋の入れ替えは自由だということで、二人が皆で同じ部屋になれるよう取り計らってくれたらしい。

 今日知り合ったばかりだけど、二人と一緒に過ごすのはやぶさかではないので、俺は二人には感謝しておいた。


 

 とまあ、そんなわけで寮で初めての宿泊を体験した次の日は、午前中にベン達と校内を見て回っていた。

 現在は、午後2時。校内探検を途中で切り上げた俺達は、とある建物まで来ていた。



「おっきいねぇ」


「でかいな」


「大きいわね」


「だな」



 俺達はそれぞれそんな反応をした。

 俺達が今来ているのは『エルンスト館』という名前の付いた、貴族の屋敷のような構えの建物だ。

 外見は赤茶のレンガで統一されているが、白く塗られた木によって優美な装飾が施されており、内装はまるで舞踏会でも開かれそうな豪奢なシャンデリア付の会場が設置されている。

 そんな豪奢な空間がどこまでも広がっているのだが、ざっと見た感じ400人は余裕で入れるだろう。

 その会場には既に様々な料理がならんでおり、制服を着た生徒達がグラス片手に談笑している姿があった。



「これが新歓かぁ。なんかすごい豪華だね」


「そりゃあ天下のローゼン学園だぜ? これくらいは余裕だろ」



 ベンの呟きにゲルトが答える。

 その言葉通り、俺達は新歓にやってきたのだった。

 新歓は自由参加のイベントなのだが、俺が参加することを希望したため、皆で参加することにしたのだ。

 理由はもちろんアメリアを護衛するためである。


 え、アメリアを護衛するのに本人に接触する必要があるのか? 別に陰ながら見守っているだけでもいいのではないか?

 俺は最初そう思っていたのだが、任務の内容を思い返してその考えを改めた。

 というのも、敵は賊だけではない。他派閥の貴族も敵だ。そうなると、身分を後悔せずに貴族達の接触を防ぐためにはアメリアの近くにいて彼女の防波堤になる者が必要になる。

 では、その防波堤は誰がやるのか? 

 そこまで考えて俺はハッとした。

 

 

 そうだ。この役割をこなせるのは今、俺しかない。

 俺がアメリアの友人となり、貴族共の悪辣な勧誘から守り通さねばならないのだ。

 この作戦。俺が彼女の友人に慣れるかどうかで成否が大きく変わってくる……!



 そういうわけで、俺はこの新歓に参加することを希望したのだ。

 今回の作戦の重要性が分かってもらえただろうか? 

 ……何か重大な協力者のことを忘れている気がするが、忘れたってことはそれほど重要なことじゃないのだろう。



 まあ、話を変えて今回の作戦について考えるか。

 といっても、作戦内容は単純だ。

 ホルガ―の調査によると——ホルガ―の資料にはアメリアの行動パターン、癖、交友関係、好物、1週間先の予定まで詳細に記載されていた。仕事とはいえホルガーの人間性をちょっと心配した―——彼女もこの新歓に参加するらしい。

 そこで、俺がうまく接触して面識を保つ。

 今日行う作戦内容はそれだけだ。



 ……そういえば、その作戦の一貫で、ベン達に新歓に行きたい理由を説明する時は適当な嘘をでっちあげたけど、特に詮索されることはなかったな。

 まあ、お人好と脳筋とブラコン(?)しかいないから、どうせ俺が新歓に行きたい理由なんて気にしていないんだろう。

 そんなことがあったりしたが、ちゃんと新歓に参加することが出来たので作戦に支障はない。



 ……なんかこうして考えると、この三人ってめっちゃ騙されやすそうだな。うん。俺が何とかフォローしなければ。



 話が逸れたが、新歓である。

 時間までに会場入りした俺達は、適当にグラスを取ってその場で雑談を交わす。

 そうしていると上級生が積極的に絡んできて、学年を越えた交流が生まれ始めた。

 ある程度会話が温まってきたところで、俺は「ちょっとお手洗いに……」といいつつ場を抜ける。そして、会場の端に寄ってから、会場全体を眺めた。



「アメリアは……人が多くて見つからないな」



 400人が余裕で入る会場いっぱいに人がいるので、目視で探しながらアメリアを発見するのは時間がかかる。

 とはいえ、俺が新歓に参加していられる時間は2時間までだ。クラスごとに参加できる時間帯が決まっているので、早めに見つけないとろくにアメリアに接触できないかもしれない。

 そう考えた俺は、こっそりと魔法を使うことにした。本当は魔法を使うと魔力の流れでバレる可能性もあるから使いたくないのだが、部下に周囲を確認してもらってから使えば問題ないだろう。学生や普通の先生は魔力が見えないから問題ない。



「それじゃ行くか。——『竜眼』」



 俺が魔法を唱えた瞬間。視界が大きく切り替わる。

 視界に色とりどりの煙のようなものの流れや、大量の文字列が浮かび始めたのだ。

 これは俺の魔法『竜眼』。文字通り、竜の眼と同じ視界を再現することができる。

 この視界で見えるのは魔力と対象の記憶情報なのだが、そのうち煙のように見えるのは魔力で、文字列は対象の記憶から引き出した名前の情報だ。本来なら記憶情報はもっといろいろ引き出せるんだが、アメリアを探すだけなら名前だけで十分なので見過ぎないようにしている。


 そんなわけで、俺は『竜眼』を発動しつつ部屋の中を移動してアメリアを探した。しばらく歩いていると、薄紫色の長髪と瞳を持つ少女に目が留まる。彼女の頭の上には「アメリア・レーベル」と表示されていた。

 

 資料で見た特徴と一致する。彼女がアメリアで間違いないだろう。


 そう考えた俺は魔法を解除して、アメリアを再度見た。


 身長160センチ程度で華奢な体格の彼女は、会場の壁の方でちびちびとグラスのジュースを飲んでいる。

 そんな彼女の視線がこちらを向いた瞬間、俺の視線と彼女の視線がバチッと合う。

 そして、彼女は驚いた表情を見せた後——逃げた。



「ちょ!? おい!」



 え、なんで俺を見て逃げるの? 俺何か悪いことした?


 疑問に思いつつも俺は急いで彼女を追いかける。

 会場内で走るわけにはいかないのでお互い早歩きだが、アメリアはずんずんと人の間を縫って会場出口へと向かおうとする。

 このままだと、会場から出ていってしまうだろう。そうなると、クラスの違う彼女と自然に接触できる機会はもはや訪れないかもしれない——



 ——ならばここは少し強引にでも彼女との接触機会を作るッ!


 そう考えた俺は、とっさに魔法を放った。



「——『竜鱗』ッ!」


「……えっ?」



 俺が魔法を発動すると、アメリアの歩みが止まる。

 彼女は足を進ませようとするものの、足が床から上がらず困惑しているようだった。


 今使った魔法だが、これは『竜鱗』といい、竜の鱗と同質の物質を生成して操る魔法だ。これをアメリアの靴裏に発生させ、会場の床に固定したのだ。


 そのことに気付いたのかどうなのか、アメリアは俺の方を振り返る。

 そして、魔王復活の報を聞いた村娘のような絶望した表情を浮かべた。

 

 そ、そんなに怖がらなくてもいいじゃん……ていうかさっきから何で俺を避けるの? あれか、俺の顔が怖いのか? 微妙に傷つくんだけど!


 そんなことを考えているうちに、俺の足は随分と進み、アメリアの真正面までやってきた。 

 アメリアは魔王に出会った辺境の村娘みたいな絶望的な表情を見せるものの会場の人達はそれに気づいた様子はない。

 俺はそんなアメリアに近づき……とりあえず、怖がらせないように笑顔を見せた。



「こんにちはアメリアさん。ちょっとお話したいんだけどいいかな?」


「ヒィィィィィ!」



 だから何で怯えるの!


 

 

 


 

〇 〇 〇


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