第6話 偉くてもそれがどうした君

「おい!最近調子が良いそうですな?」

「そう思うのは他人だけ。俺、絶不調なのよ。思い通りになると思っていたのに、反対になって行くのさ。どうしてだよと俺は泣くしかないのか?」

「だけどお前、この前『くっ、くっ、くっ。今日の俺は一味違うぜ!やっと希望の光が見えた』とか、何とか言ってたやないか」

「はっ、それはどうも。この俺が間違いを犯すとわ。世も末じゃ!」

「どうしたんや?話してんか?」


「は〜ぁ。上司に逆らって三年や。俺、ペイペイの下っ端やろ。最初服売り場に送られて、販売員の女の子と仲ようなって喜んでたんや。毎日職場がデートみたいなもんで浮かれてたんや。そんな時、店長が売場の視察しに来はったんやが、俺のこといたく気に入りはったと見えて、異動を言い渡されたんや」

「一体、あんたの何が気に入りましたんや?」

「さぁ、それがサッパリで。思いつかんのやが」

「サボってばかりしてたんと違うかぁ?」

「さぁなぁ。楽しく仕事してたからんなぁ。分からんわ」

「あぁ、やっぱりふざけたりなんかして遊んでたんや」

「違うわい。俺、ちゃんと売場の売り上げに貢献してたんやで。そこそこ服お客さんに進めては、買うてもろてたからな」

「けど、お前、女の子に良く乳首何色とか、パンティの色は黒?とかしょうもない事聞いたり、話したりするやろ。売り場でもアホしてたんやろ。ハラスメント男やなぁ」

「お客の居らんとこで遊ぶのはええやん」

「きっとその姿みられたんや。あいつ、風紀を乱す奴やとみられたんや」

「は〜ッ。そんな事で。あ〜ぁ、エデンの園から追放されたんか?」

「まぁ、良かったなぁ。失楽園やけど、地獄に送られんと済んで」

「何言うてんねんなぁ。異動先は食品部。それも重量部門やで」


「本来なら皆んなイヤがる部署やけど、俺はOK!何でも来いと楽しんでいたら、今度はお菓子の売り場に変えられたんや」

「お前のことや、いちびって遊んでたんやろ」

「アホかいな!重たい食品はな、扱いが簡単なんや。流行り廃れがない。在庫管理さえしっかりしといたら、まず、損せいへん。ただ、重たいのが難やけど、オレ、そんなん問題でないからね。ちゃんと管理も出来て、利益も出していたんやで。毎日定時出社、定時退社。ゆっくり働いて、美味しい職場やったんたけどな」

「そうやなあ。お前、重たい荷物持って遊んでたからなぁ。外見で決めつけた奴アホやなぁ。お前を泣かそうと思ったら、彼女引っ付けて、その後生木を裂くように別れさせたら良かったのに」

「うっ、うっ。何でそないな事言うねんな。彼女、親に呼び戻されて地元に帰ったんやけど戻ってけえへんねん。おかしいなぁ?って思ってたら会社辞めてたんやで〜。どう思う・」

「そうか、金持ちで男前、地元密着型のええのんが目の前にやって来て、ガブっとな。釣られたか釣ったかは分からんが、諦め、もっとええのんがまたやって来るって」

「そう思ってみても涙でるわ」


「それで、お菓子は軽いし、楽やろう?」

「アホか!それがあかんのや。ええか。お菓子の売り場には魔物がいてるんや」

「フ〜ン!お前の言う魔物ってオッパイデカっくって、お尻フリフリしてる、ツノの生えてるって奴やろう?」

「う〜ん。そんなんおったら家帰れへんわ。売り場でゴロゴロして遊んどるわ」


「違う違う。売れへん思ってたら、急に売れ出す。売れてたと思ってたら売れなくなる。高いと感じていても売れ、安くしても売れへんのや!魔物の仕業と言われているんや」

「フ〜ン。その魔物、お前の友達と違うのん」

「まあな。俺も最初分かれへんかってん。けど、原因さえ分かれば簡単やったんや」

「そんなに?」

「そうやがな。売場の構成を変えて、チャントした所に置いたら、思いのままや」

「それでお前、またそこで何かやらかしたやろ」

「ふん、売り場に寝転がり、テレビを監視し、子供を誘導して業績を上げて来たんや。売上高三倍やで。納品数が以前に比べて異様に上がって来たら、知らん業者がやって来て、これ頼みますって、大量の売れそうにもないお菓子置いて行こうとしやがるねん。それで、そいつに聞いたんや。オレ、発注してないよってな。そしたら部長さんには話が通ってますって、言いよるねん。オレ、即座にいらん、いらん。持って帰って。そう言って追い返したんや。そうしたら、その部長さんらしいお方から文句がきたけど、スルーしてやったんや。怒っとったんやろうなぁ。次の日店長が来てガミガミ言われたけど、売り上げの責任問題に話を持って言ったらスッといなくなりおったわ」

「やっぱり、お前は問題児や」

「アホ、売上上げんと遊んでる奴の方が問題児や。オレは、店にやって来る子供をたぶらかして、ジジ、ババに、母親にお菓子買わせるんや。悪い奴と言われてもしゃないけど、これが世の中や。売れへん売れへんと残業して、会社の金食うのはどうかと思うけどなぁ」


「フ〜ン。けどそんなけ売上増えたらお前一人で業務こなせるんか?」

「オレの下に二人のおバカが居てるんや」

「あぁ、そいつら、使えんのか?」

「ホンマ、使えん奴らや。1言うたら2か3ぐらいは分からなアカンが、あいつら1.5ぐらいしか分かれへんのや。困るわ。それとメッチャ反抗的や。怒られる意味も分からんのかと、腹たって来て、どうしたろかと考えて居たんや」

「お前、また、あれしたんか?」


「ふふふふ。ようわかってるやん。あの手を使ったんや。今じゃあオレの奴隷よ」

「アゴでこき使ってるんや」

「可愛いもんや。言われた通り働きよる」

「今回は何で脅した?」

「ジュースや。一人に缶ジュース奢ったる言うて、買いにいかせたんや。アイツらアルミ缶のジュース。オレは鉄缶のコーヒーや。飲み終わって鉄の缶を上からグッグッってペッシャンコにして見せて、一人にゴミ箱に捨てさせたんや。それからビビって逆らわず、オレの王国は安泰さ」

「またかいなぁ。お前、悪やなぁ」

「まぁ、アレくらいのことは、ほんのチョットしたコツで出来るんやけど、知らんとなかなか出来へんねん。オレも教えてもうて、努力したんや。努力の人と呼んでくれてもバチは当たれへんで」


「そしたら、今、ええ調子やん」

「それがアカンねん」

「何で?」

「この前、売り場、部門の利益率、前年比の4000、何百倍やったかで表彰されてん。そしたらお国替えになったんや。部長、店長に逆らってたのに本店に近い店に送られるねん。あんな奴らに偉そうに言われ続けるって地獄やん。遠くに行きたいのに。イヤや、とは言いたいが、雇われの身やからしゃないなぁ」

「ええやんけ。ええ女もおるやろうに」

「あかんねん。もう、たいした娘おれへんねんで。楽しないねん」

「けど、店の周り楽しいやろうに」

「アホ、高いねん。今の方がずっと楽やったんや」

「まあ、偉い奴に逆らったら偉い目に合わされたと言うことやねぇ」




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