第4話 恐ろしや
「おはよう!」と言いつつ、背中をポンと叩きよった。
「おい!どうしたんや。身体ピクピクと震えてるで」
「触らんといてくれ。触られたらガクガク物や」
「どうしたんや。身体全体が性感帯にでもなったか?凄い覚醒したなぁ」
「アホ。そんな事ある訳ないやろ」
二人が話してる後ろにボヤ〜としてただ座ってるのが5人、その会話を聞いていた。
「おい、誰にも言うなよ」
男は聞こえる声で言う。オイオイ、後ろで座っている俺たちに気づいていないのか、もしかしたら、小さい声で喋っている気なんだろうかと考えていると、男はポケットから紙を出して見せていた。
「これが原因や」
「これが?ただの割引券やん。それもプリントアウトしたモンやん」
「そうやがな。俺が自分で探して良さそうなんを見つけたんや。その中で心に響くのんをプリントアウトしたんや」
「なかなかやる気やん」
「なかなかのやる気?何が?」聞いていて突っ込みどころ満載やん。
「俺、アンマやマッサージは強いのんが好きやねん」
「そんな強いのんって痛いだけやろう?」
「体に刺激が無かったら感じへんやん」
「めちゃくちゃにして欲しいって、変態やん」
「あほっ!変態ちゃうわい!弱いマッサージやったら疲れが取れた気がせえへんねん」
「それ、絶対にマゾっ気や!俺でよかったら叩いたろか?」
「いや〜。それだけは辞めて!もう体になんか当ったら、ビクッとしちゃって大変なんや」
「フ〜ン、そうなんや」
そう言った横の奴、肩を指でチョコンとツッいた。
「ひ〜や〜!」のけ反り、うずくまる。
「何すんねん!このボケ!触るな言うてるやろ」
「恐ろしい反応やなぁ。どうしたらそこまでエライことになるんや」
「教えたるわ。昨日の事や。マッサージに行こうと考えていたんやが、やけに首が凝って辛かったから、特殊なマッサージがええやろうと低反発マッサージに行ったんや」
「その低反発マッサージってそんなに厳しいんか?どこが低反発なんや?」
「違うねん。そこに行ったら、そこのマッサージ師が言うねん。『うちのマッサージは明日になれば効果が出てきます。今日は帰ってゆっくりして寝てください』それでやってもうて、終わったんやけど、何やらもう一つ効かんと思ったんや」
「そら、今日やがな。気持ち良くなるのん」
「俺は昼飯食うのんやめて、もう一軒行く事にしたんや」
「それで?」
「こんな手ぬるいマッサージは効かんと思い、もっと刺激的なマッサージを求めて次はモンゴルマッサージに行ったんや」
「アホやな〜!マッサージのハシゴなんかして。体に負担かけすぎや」
「俺、自信あったんや」
「結局は自信喪失。体ガクガクに成り果てたんやな」
「そこ行ったら女が出てきて」
「そうか、その女に手を出してそんな身体に」
「アホ!違うわい。ちゃんと聞け!そのマッサージ屋はモンゴルから来た夫婦がやっとんや」
「また、若い子が出て来て、ええこと仕掛けたら、裏からお兄さんが出て来て、とか思っちゃいましたわ」
「アホ!おばはんじゃ。手何んか出せるか」
「アンタ、守備範囲広いから」
「俺は綺麗どころ一筋じゃ」
「フ〜ン。そうやったんかいな」
「あんまり茶化すともう話すのやめるわ」
「あっ!ええよ。モンゴルのオバはんに手出してエライ目にあったって言い回るから」
「ちょっと待ちいなぁ。何でそんなこと言うん」
「聞いたらそこまでやったからなぁ。後を聞いたら内容も変わるやん」
「わかったわ。オバはんが日本語とモンゴル語話すんや。おっさんはモンゴルから出て来たばかりで日本語喋られへんねん」
「ああ、俗に言う出稼ぎ一家や」
「うたい文句が『お相撲さんもニッコリ。満足のマッサージ』やったんや」
「えぇ!相撲取りが相手なんかいな。俺やったら絶対に避けるやつや」
「俺も入った時なんか嫌な予感が頭よぎったんや。せやけど、なんか後戻りするのん男としてアカン様な気がして」
「ほんで地獄行きかいな」
「違うがな。まだそこまでやない。やり始めたらマッサージやない。拷問や。痛い、痛い、もう少し力緩めてくれ、って、オバはんに言ったんや」
「そうか、それでゆっくりしてもうても、そんな事になったんや」
「違うんや。オバはん、モンゴル語で何か言いよったんや。そしたらおっさん手を離して、体制を変えよんねん。これでゆっくりしてくれると思っていたら、俺の上に馬乗りになりよった。そこから力一杯、前よりも力入れてモミよるねん。痛い、痛い。何でこんなに力入れるんや。オバはん、おっさんに何言うた?って言ったら、『アンタ、このお客、このまま返したらウチ店のこと悪く言う。だから、精一杯、全部やり尽くさなアカンで。そう言うた』って言いやがって。もうやめてくれ。金は払う。言うても止めやがらんと最後までやられたんや」
「お前、男や、怒ったんやろな。滅茶苦茶しやがってって、言うたんやろ?」
「そんなもん。何も残ってるかいな。フラフラやがな。割引券引いた残り5500円を払って出たよ。戦う気力なんかあるかいな」
「気の毒に」
「ぼう〜として、フラフラや。やっと車に乗って、必死に家に帰り着いたんや。命懸けやったんやで。家ついて、嫁はんに布団敷いてくれって頼んだんや。『どうしはりましたん?』って聞くから、モンゴルマッサージに行った事やされた事を話したら、『アホやなぁ。お金払いましたんかいな』って笑われた。『引きましたで、早よ寝なはれ。あんまりアホなことしませんように』って言ったら、あとは放ったらかしにしやがって。朝まで身体ビクビクさせながら横になってんや」
「よう仕事に来れたなぁ。運転も大丈夫やった?」
「いつもは100キロぐらい出すけど、今日は45キロでフラフラや。車がかくっと揺れると身体にビクッと刺激が走るんや。大変や」
「怖い、怖い。モンゴルマッサージ!」
「うるさいわ!」
あんまりのバカさ加減に後ろの五人が「フッ〜」って笑った。
急に振り向く二人。
「今、笑うたん誰や?」
「あっはははは。アホらし。ハシゴマッサージ恐ろしや!」
一人が声をかけると真っ赤な顔をして叫んだ。
「モンゴルマッサージ、さしたろか?」
「恐ろしや!恐ろしや!モンゴルマッサージ」
みんなそう行って離れて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます