第3話 どちらが悪い?
「おい!聞いたか?」
「ナニを」
「さ〜ちゃんやがな」
「何かしたんかいな?」
「違うがな。オレはアイツよりもアクが少ない。人当たりがええ。みんなに愛されてる。ってさっき皆んなと話してたんや」
「ウッ!そんなアホ、ほざいてたんかいな。オレを呼ばんかいな。缶ジュースの一件をみんなの前で話さなあかんがな」
「それは流石にやめとき」
「何でや」
「オレの顔見た時、ハッキリと言うとった」
「ナニを」
「あの社長はええ人やと。商人の鏡やと。ほいでニコニコ笑って見ていたオレを見て、誰やとは言いまへんが、えげつない人が居てまっせ。困ってるオレを見て、足元見て、何と身ぐるみ剥がそうとしはりますねんと、まあ、暗にオレが悪人みたいに話ししよるねん」
「フ〜ン。それは言えてる」
「ふん!そんな事言うてたら、また生贄にされるで」
「なるか!」
「お前、この前オレを笑ってた事あったやろ」
「ええ。いつの事や」
「アホ!キチがオレの店来て、どうしたろかと苦労してた時や。お前、それ見て笑ろうたやろ」
「ああ」
「その後、どうなった?次の日。あのキチ、お前の店行って、お前の手を握って踊ってたやないか」
「アホ!客に悪さされたらあかんと思って、アイツの前に立ったら掴みかかられたんや。3時間やで。腹たつで」
「そうやろ。あんまりな事したら自分に帰ってくるで」
「オレは何もしてへんがな」
「分かった、分かった」
「そやけど。さ〜ちゃん、今日は本調子や。波に乗り乗りや。こんな時はコケよる気がして、仕方ないんやけど。どう思う?」
「そうやなぁ。コケるとこ見に行こっか」
「どうコケるか、楽しみや」
「や〜!さ〜ちゃん。元気かいな」
「元気ですよ。物凄くエグい人。あっ!これは社長さんやおまへんか。ご機嫌いかがですか?」
「偉い違いやなぁ。オレは何かどうでもいいような、感じがありありやなぁ」
「社長。どうですか?」
「話も合わせへんのんか?タダでコーヒー飲ましてもらいながら。30円にしたんなら許すけど。するんか?」
「アホな。それにコーヒーもうおませんで。昨日当たりやったか、前の方から流れて行きましたわ」
「缶ジュースは今日の分、腹にまだ入ってるもんなぁ」
「そんな話と違います。社長はええ人や」
「お前、モテモテや。やっぱり生贄は肥え太らせてから祭壇に上げられるんや」
「何を訳の分からん事言うてますねん」
「お前、身ぐるみ剥がされるとか言うてたけど、一遍剥がされてみい。心も体も軽くなるで」
「誰が剥がされますかいな」
「社長の上着ぐらいは剥がしてるやないか。それも相手が知らん内に。いや、パンツか。知らん内にパンツ脱がすやて、なんと恐ろしい奴やなぁ」
「そんな事ないよ。なぁ、社長。オレ、ええ奴やろう」
「見てみい。何も言わんやないか。同意出来んらしいで」
「何でやねんな?社長、オレ、ええ奴やんか」
「みてみい。日頃の行いや。オレみたいに真面目な仕事してるのにエグいって誰かが噂流してるんやで。社長さん」
「ホンマか?」
「そうやがな。さっき、なぁ、さ〜ちゃん?」
「違いますがな。誰とはいってませんがな。もしかして、あんた、自分の事やと思いはりました?それは胸に思い当たることがあるんと違います?」
「オレも色々とあってな。さ〜ちゃんにも陰口叩かれてるわと悲しかったんや」
「オレ、人の悪口は言いませんで」
「そうか、そうやったんか。オレの聞き間違いやったんか?さっきも物凄くエグい人とか、何とか言われたような気がして。空耳やったんかいな」
「そうですがな。聞き間違いでっせ」
「そうやなぁ。それやったら、オレらにコーヒー奢ってんか」
「何で?」
「詫びに奢るんと違うで。オレらと君が仲良くコーヒーを飲んでる絵を他の人に見てもらわんと、オレ、悪い人に思われてへんかと心配になって」
「それやったらオレが出さんでも」
「何を言いますねん。あそこで話してたアンタが金出す所が、真実として伝わるやがな」
「金持ちが出せへんのは、ちょっと引っかかるなぁ」
「あのなぁ、気持ち良く出さへんかったら、効果薄れるで」
「コケた。いつもは絶対に出さへんのに」
「まだまだ、もっとコケると思ってるけど。何か一つ、決定打に欠ける気がして。今ひとつ納得でけへんなぁ」
コーヒーを二人に持ってくるさ〜ちゃん。
「これでよろしおますやろ。あんまりオレの悪口言うたらあきまへんで」
ニコニコの顔して俺たちの前に座る。
さ〜ちゃんの後ろの向こうの方から男がこちらにやって来るのが見えた。
「さ〜ちゃん。アンタ、さっき言うてたアンタよりもアクが強くて、嫌われている奴って誰?」
「何言うてんねんな。あの人やんか。皆んな知ってる人ですがな」
「フ〜ン。そないにアクが強いんですか?」
「そうやなぁ。オレなんか足元にも及びませんで」
「そらそうや。さ〜ちゃんは人当たりええもんなぁ」
「社長。そうでっせ。オレ、サービスのさ〜ちゃんでっせ」
「アイツとは偉い違いや」
「そらそうやがな。怖い、エグい、悪い。三拍子揃ってますっせ」
話してるさ〜ちゃんの首元に腕が伸びてきてグッと閉めた。
「何するねん」
「何がないするねんや?今オレのこと、悪う言うてたやろ」
「何かの間違いや」
「ホンマか?怖い、エグい、悪い。三拍子揃ってるって言うてたやろ!」
「オレはあんたの事、そんな悪い奴やと思てへんで。出来る人やと尊敬してますのや」
「いや、今日こそはこの首を絞めたる」
「あんたみたいな ええ人が、そんな事言うてたらあきまへんで。噂話をしてただけですがな。誰もあんたのことやとは言ってませんで」
「いや!前の二人が違うとも言わんと笑てるやないか」
「何とか言うてえなぁ。オレがひどい目に合ってるのに。笑てたらあかんがな」
「コーヒー飲めへんか?自販機やけど、奢るで。さ〜ちゃんこれで買うて来てや」
「先輩、何にしはりますか」
「調子だけはええな。そこの一番高い奴」
「高い言うても200円もしませんのですが」
「おい、誰が金出してるねん。お前が出してるんじゃないんやで」
「はい。すいません。これです」
「まあええか。ご馳走さん」
コーヒーを持って去って行く後ろ姿を見送るさ〜ちゃん。
「あんな、後ろに怪獣や猛獣がおったら、教えてくれるのが親切というものやろ。何も言わんやて。信じられへんわ」
「大変やったなぁ。そやけどその危機を何とか助けてやったこのオレの機転に感謝しやなあかんのと違いますか?」
「けど、もしアレが虎やったらどう助けてくれたんや?」
「ああ。あんたに噛り付いた時、助けるための武器を取りに行くわ」
「ふん、俺ら助かったって、そのまま帰ってけえへんつもりやろ」
「そんな事するかいな」
「ふん。二人とも目こっち見てへんやないか。それに笑い堪えてるやろ」
「けどあそこまで腹減らしてたら、帰ってきても、もう骨になってるやろうと」
「二人してオレを助けてやろうとは思ってくれへんのか?」
「悪い。オレら二人じゃ力不足や。逃げさせてもらいますわ」
「期待したオレがバカやった。虎に前の二人の方が美味しいと言うてやるわ」
「あんたを食い終わる前に逃げるわ」
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