第18話 テストどうだった?

 地獄のテストは終わり理人も土日は思いっきり羽を伸ばして自室にこもった。日曜日には繁から遊びの誘いがあったので重い腰を上げてゲーセンに行ったが、特に何もなく休日は終わっていった。週明けはテストが次々と返ってくる。それに何となく陰鬱な気持ちになりながら理人は授業を受けていた。

 

 先生による変に長い前置きの後テストが返されていく。テストの解説を行ってそのまま授業をせずに終わる教師も結構いるのでそういう意味では楽な授業だ。

「……ちょっとやばいかもしれない」

「俺それ毎回聞いてるな」

 繁は机の上にこれまで返ってきた答案を並べながら机に突っ伏していた。理人から見れば前よりは少しは点数が上がっているような気もする。が、恐らく平均スレスレかそれ以下の答案はやはり見たくないものだろう。

「あー、もういいや!どうせまた二年生もこんな感じだろうし」

 いよいよ繁が諦めて自暴自棄になった。そんな休み時間を過ごしたテスト明けの月曜日。授業の体感時間もかなり短く、理人は何となく満足した一日だった。


「理人」

 放課後、もう人があまりいなくなった教室で。放送室に行こうとして席から立ち上がった理人に後ろから蛍が話しかけてきた。その雰囲気に少しだけ理人は違和感を感じ取った。

「あ、そう言えばテストどうだった?」

 でも、勘違いだろうと違和感を頭の隅に追いやって。代わりに今日は一回も蛍と話していなかったことを思い出して話を進める。

「理人が教えてくれたから結構勉強の意欲も上がってさ。かなり今回はいいかも。ありがとう」

 蛍は微笑してそう言う。繁の弱音ばかり聞いていたので蛍のそんな言葉を聞いて理人は嬉しくなる。しかも好きな人に感謝されて言う状況だ。嬉しくないわけがない。

「ほんとに?それなら俺も嬉しい。こちらこそありがとう」

 会話がそこで止まり、理人がそろそろ部活行くかと考えたとき、居心地が悪そうにそわそわしていた蛍が口を開いた。

 

「あのさ!何ていうか、わざわざ家で教えてくれたりさ、放課後の時間割いてもらったりさ。感謝の気持ちとして、これを……」

 後半声が小さくなりながら、不安な声色を覗かせて蛍は理人の前に一つのラッピングされた袋を差し出した。どういう事か、と理人は一瞬状況を飲み込めていなかったがすぐに思い至った。もしかして――。

「土日に作ってきたんだ。チョコ。バレンタイン……には少し遅いけど、まあ、ありがとうってことで。受け取ってほしいな」

「こんな、いいの?」

 

 つまり、今理人の手には蛍の手作りチョコレートが乗っかっているということだ。理人の鼓動は途端に早くなる。あれほど貰えなかった、と心底嘆いていたのに。

「バレンタインは……ほら、テスト期間だったし。お礼言いたかったからさ、終わってからでいいかなって」

 蛍がそう言うのを聞きながら理人は考えていた。もしかして今から河本先輩に相談しようと思っていたアレを明かすべきではないのか?でも、迷惑と思われるかもしれない。いや、少なくとも蛍は友達としては自分のことを見てくれている筈だ。不安になって思考が乱れる自分を律する。

「じゃあ!私も部活あるから、また明日!」

「あ」


 何か口を挟むことも許されずに蛍は何かをごまかすように急いで教室から出ていった。バタバタ、と彼女が階段を下りていくことが聞こえて、もう理人は追いつかない。追いかけても変に見えるだけだろう。


 理人は自分の席に座り込んで、胸の奥に溜まっていた何かをため息として吐き出した。

「多分、俺転校するんだよね」

 蛍に聞こえるはずもない声量で理人は呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る