第16話 問題発生

 その日、蛍のところから帰ってきて意気揚々としている理人に父親が声をかけてきた。いつもはニュースをただボーッと見ている父が、だ。彼は自分の仕事のことはあまり話したがらないがどうやらどこか大きい企業の研究員としてなにか研究をしているらしい、ということは知っていた。やってることが専門的すぎて理人に話しても理解できないから、という理由で話していないのだとは思う。それでも遅く帰ってくる父やたまに出来た休みの日には自分の疲れを癒すことだけに集中している父を見ていると、何となく心労を察してしまうのだ。

「理人、話したいことがある」

 いつもより数段は厳格な声色でそう言ってきた。

 理人の頭の中に浮かんだ文字は『再婚』だった。実は理人がここに越してきた理由は両親の離婚が深く関係している。理人は父親を選び父親は理人がある程度は不自由なく過ごせるようにマンションを一部屋借りたというからだ。深く話せばもう少し色々あるのだが兎に角理人は父親が再婚するのではと思ったのだ。

 しかし、考えてみると両親が離婚してからまだ日が浅い。このスピードで再婚とは随分早いなと勝手に理人は決めつけながら父の話に耳を傾けていた。

「今日休みだったし話せると思ってたのに理人どこか遊びにいってたからな。けど今日言うのが一番いいと思ってな。理人、――って覚えてるか?」

「は?」



 昨日の夜はあまり寝られなかった。父の発表内容があまりにも予想外すぎるところからのパンチだったのだ。こういう時に相談できそうな河本先輩とは今日からテスト期間なので部活停止となっているので会えない。かと言って繁に相談できる内容でもない。

「なあ知ってるか?友よ。明日が何月何日か!」

 噂をすれば影だ。

「2月14日、バレンタイン。お前が川原先輩から貰うことは無いから安心していいよ」

「全部言うなよ。それに、先輩がもしかしたらくれるかもしれないだろ!」

「ねえよ」

 そもそも繁は川原先輩となにか特別に接点を持っている訳でもないので天地がひっくり返っても川原先輩が赤面しながら繁にチョコをあげることは断じてない。河本先輩の方が余っ程チャンスがある。

「あ、そう言えば瀬良と一緒に勉強どうだった?」

「なんでそれ知ってんの?」

 そう言ったとき失言した、と思った。そう言えば渚が理人に絡んでいる会話を繁は聞いていたな。繁の『ただあそこだけの冗談で終わったのか』『本当に一緒に勉強しに行ったのか』という二択を探る鎌に引っかかったことを自覚した。

「で?」

「いや、特に何事もないよ」

「ちぇっ」

 繁がつまらなそうな顔をして話題が尽きたと悟ったのか、休み時間が終わると思ったのか前を向く。他人が聞いたら今更かと思うだろうが、理人は自分が蛍が好きなことを繁に言ったことはなかった。その為今でも理人は自分が蛍のことを好きだということを隠し通せていると思っているし、理人のことをよく知る繁は彼の性格をよく王りょしてあえてそれを口に出すことはない。けれど、見え見えだ。

 会話が終わって昨日の夜のことを考えると理人は頭を抱えるしかない。しかし、今頑張ってもどうにかなる問題でもないので取り敢えず今頑張るべきなのはテストだということを認識する。

 そうして真っさらにした脳裏には『バレンタイン』の単語がぽつんと頭の中に残っていた。

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