第12話 お互い様ですよ

 もう夕日になっている太陽の光が窓から差し込み薄く影を引き伸ばしている放課後にやることは大体決まっている。部活がなければ家でゲームをし、部活があるのならば放送室へ足を向ける。部活に行ったらゲームをする時間はその分消えるが部活に行くのもゲームするくらい楽しい。

 「失礼します」

 ドアを開きながら先輩たちの姿が見える前から挨拶を口にし始める。もはや中に誰も居なくても言わなければならない空気になっているのは多分事実だと思う。いつもは先に川原先輩が来ていることが多いのだが、今日は彼女は先に来ておらず河本先輩がちょうど鞄を下ろしていた。

 「あ、有賀」

 「こんにちは」

 当たり障りない挨拶で何となく距離を置く。いや、置いても無駄だが……。

 「映画どうだったんだ」

 そう、こう言われているのを知っていた。河本先輩は自分の恋愛に重ねているのかは知らないけれど俺と蛍の恋バナを知りたがる。二学期の途中に好きバレする心配もほぼない先輩ならいいだろうとポロッと口に出してしまったことをきっかけに、だ。別に不快という訳では無いが、冬休みに引っ越したマンションに蛍がいたということを話したら少し衰えていた勢いがまた元に戻ってきている。流石に川原先輩の前ではその話はしないので正直俺も河本先輩との話を楽しんでいる節はある。

 「まあ、映画は面白かったです。おすすめですよ」

 「そっちじゃない、瀬良さんとの話だ」

 「察してくださいよ」

 「……まあ、そうなるよなぁ」


 本当に分かりやすく落ち込むな、と俺が笑ってしまいそうになる。河本先輩は真面目な性格の反動からか感情がとても表に出やすい。常に全力投球、と言ったところだろうか。その姿勢が裏表ない感じがあって接しやすい。

 「先輩こそ、そろそろ何か動いてみたらいいじゃないですか。もう全く勇気がないんだから」

 「お前だけには言われたくないな」

 「まあ俺が言えることじゃないのは分かりますけど、もう2年以上片思いって……何やってるんですか本当に」

 河本先輩曰く1年生の入学したての頃からずっとその人に恋をしていると言う。別に先輩も顔が悪い訳でもないのだからいい加減アタックしたらいいのに、と思ってしまう。俺が蛍と仲良くなれて少し調子が乗っているが二学期間に何か出来ているか、といえば出来ていない。やはり恋愛不器用なのはお互い様だ。

「俺にそんなことを言いたいなら有賀もそろそろデッカく出たらどうだ?」

 俺が出来ないことを分かって言ってくる先輩に苦笑いする。


 男二人で談笑しているとそんな事も知らずに川原先輩が放送室に入ってくる。ドアが開く音がした瞬間に来たのが先生でも先輩でも恋バナは出来ないのでピタッと会話が止まる。

「失礼します、遅くなってごめん」

 透き通った声にロングの髪をなびかせている。雰囲気は大人っぽい感じを出しながらも、話してみるとふざけることも大好きな子供っぽさが垣間見える。彼女のことを可愛いと言って恋に落ちる人の気持ちは良く分かる。でも、川原先輩は彼氏とかいそうだよなあ。河本先輩も大変だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る