第11話 興味あるかな

 映画を見に行った次の日だった。学活の時間にふと先生が口を開いて「席替えするか」と言い始めたのだ。確かに今の席順は"二学期の席"だし、確かに最後に席替えが行われたのは夏休み終わりだったが、そんなことがすっぽ抜けていた理人は突然の蛍との別れに面食らう。

「理人と離れちゃうかあ……隣ありがとうね」

 蛍も口惜しそうに話しかけてくる。だが理人はまだ早い、と思っていた。二学期の席替えの時は確か席順はくじ引きで決めていたのだ。ということは、蛍の席の周りを引ける可能性は一二分にある。先生の指示によって、生徒たちが列をなして次々とくじを引いていく様子を見ながら少しづつ自分の番が近づいてきた。

 仲が良い奴と一緒になれたことに喜ぶ者もいれば、男ばっかりあるいは女ばっかりの場所に飛ばされて落ち込んでいる奴もいる。それらを見ながら自分の手に意識を集中させた。

「……よし」

 理人の番が来る。。箱の中にある紙をまさぐり適当なところに目星をつけ、引き抜く。

「11番!」

 黒板と照らし合わせて場所を確認すると……後ろの方の席だ。単体で見るならかなり当たり席だと思うが、蛍は?

「あ、どうだった? 私35番だけど」

 ……めちゃくちゃ離れてる。

「結構遠くなるね、これまでありがとう」

 ワンチャンもう一回隣も有り得るとか思ってた自分がとても馬鹿らしくなった。意気消沈しながら席を移動する。そう言えば繁たちはどこだろうか?

「理人! あれ? もしかして俺が前?」

「繁が近いのかよ」

 いや、周りに話せる奴がいるだけで助かる。くじ引きだから確率的には周りが全員女子とかも全然有り得るからな。クラスの女子でまともに話せるやつ瀬良しかいないし……まあ、三学期は短いし繁と楽しむか。そう早くも思考転換し、理人のさっきの気持ちはどこへやらフェードアウトしていった。


「お、有賀じゃん」

 横から女子が俺の名前を呼ぶ。女子がなんでわざわざ会話に入り込んでまで、と思ったが聞き覚えがかなりある声だ。あれ、誰だっけ。そう思いながら横に顔を向ける。

「……松井か」

「ちょっと待って、私の名前一瞬忘れてなかった!?」

「そんな事は無いよ」

「一応中学同じなの覚えてる!? 何回か話したこともあるし!」

「ちゃんと覚えてるよ」


 彼女は蛍のかなり親しい友達だ。彼女と話していけば蛍の新しい情報や一面も知ることが出来るかもしれない。最初に理人はそう打算した。一方渚はというと、理人のそんな考えは露知らず『理人は蛍のことをどう思ってるのか探ってやろう』とやはり野次馬めいた感情から企んでいるのだった。理人の隣にさり気なく座った渚はその周りにも目を向けると、怪訝な表情を浮かべた。

 「……げ」

 その視線は明らかに繁に向けられたものだ。

 「『げ』ってなんだよ! そんなに俺がここにいるのがおかしいか!?」

 「いやクラスメイトだしおかしくは無いけど……まあいいや」

 繁のことは忘れた風にして理人に向かいあった。

 「2年生になるまで宜しくね、有賀くん」

 どうすれば自分が楽しくなれるか、と考えて蠱惑な笑みを浮かべながら。

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