数寄者の手遊み
ナハウク
東ユテヒの伝承童謡の一種。用いられる語彙の一部に前近代レコム語のそれが見られることから、今から600年ほど前に発生したものと考えられている。
ナハウク、つまり「草原の花」が意味する通り、東ユテヒに広がる広大な温帯草原地帯で見られる花の名前を織り込んだ数え歌の一種であり、独特の音階、または拍子で歌われる。
歌詞は単純なもので、花の名前といくらかの飾り言葉を同じペースで訥々と繋いでいく構成。2〜3種類の花で1つの節を構成し、1つの節が終わるごとに5つまでの数を数えられる。
ユテヒ全域をナミリ帝国が統治していた時期に発生したためか、採録される地域によっては東ユテヒに生息しない種が歌詞に取り込まれていることもある。
よく知られる特徴として、こうした非原生種を歌詞に含むナハウクのうち、特に帝国国境地帯や交易の中継地に伝わるものについては、ナミリの王権を象徴する花とされていたイスクヘール(薔薇)やその別称が見られるという点がある。これはナミリによる大規模な同化政策の一環として、各地域の要地を中心に西ユテヒの植生移植を試みた痕跡であるとされている。
実際、該当エリアの付近ではそれを裏付ける資料が散見されるほか、土地の掘削作業が行われた際に西ユテヒ原産の植物種子を保存した容器が発見されることが多い。これも、ナミリ帝国統治下で推進された文化統一と、それを支えるための環境改変が積極的に実施されていたことの証拠とされる。
☆☆☆
イスクヘールとマクの花。結えてネンノとカラ、ケスイ。
冠飾ってツーツー、フアイ。エント乗っけてルーマイヤ。
――――『エントメス童謡記録』より
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