CULTURE HAZARD

事例-彁-3071「逆様」

第三種特別処理案件、所謂三特に分類されるインシデント。伝染性が極めて高い電子媒体における“M-IRUS”による言語侵食と、それが――例え侵食対象が非常用的な語彙であっても――どれほどの悪影響を人類社会に齎すかを示した代表例として知られる。

このインシデントで対象となった語彙は「異性装」。男性による女性向け衣服の着用、女性による男性向け衣服の着用という、日常生活や一般的な社会活動の中では馴染みの薄い語彙ではあったが、「強感染性崩壊型M-IRUS29号」によって、異性装という行為そのもののみならず、異性装に隣接するあらゆる概念の崩壊が発生。

結果として「社会的性」「肉体的性」「性分化」「性成熟」「性自認」といった性別にまつわる概念に始まり、「日常/非日常」「模倣」といった文化的要素、「ペルソナ」などの社会共同体運営に必須とされるコミュニケーションシステムがまず失陥。非特異的社会の認識では、「性的二形を持たないホモ・サピエンス・サピエンスが時と場所を弁えずあらゆる服装の着用を試みる」事態が頻発することとなった。

更に言語侵食が進み、遂に実体に紐づいた概念である「衣服」、果ては「物体」と崩壊が進行したことで、M-IRUS暴露深度がC/R境界閾値を大きく下回る-5ソシュールを記録。概念崩壊災害による三特として認定され、内閣府直轄の「万葉」による大規模な情報隠蔽措置が実行され、同時に「史部」がM-IRUSフィルターの調整に成功したことで、侵食が中度までで収まっていた市民の救助、及びそれ以上の侵食を受けた市民の殺害処分が行われた。

本事案では、静岡県某所で開催された大規模なコスプレイベントが感染源となっており、感染の初動においてその異常性の認識が遅れたことから、中部地方を中心に広域に被害が拡大した。M-IRUSの性質上、自然発生の可能性は低く、関係各所は情報テロであった可能性があるとして捜査を進めている。


☆☆☆


死亡者数:■■■人

被影響者数:■■■■■人(うち離脱者数■■■■■人)

史部による管理対象:■■■■人


付記…ネット上の監視を行うクローラーを改良すべきだ。


――――某「史部」職員のメモ書き

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