第一種源理機関

狭霧霞

枢密院の外局にして元老直轄の秘教機関、「天道局」所属の三等源理者。狭霧の諡を持つ源理者の例に漏れず、隠蔽工作を主な任務としているが、中でも彼女は天候に干渉する源理を特に得手とする希少な人材である。

組織図の上では総軍軍令に隷属する陰月と、枢密院を介し主上の意を受けて行動する天道局の関わりは、本来薄い。しかし、関係事案の隠蔽に関わる狭霧の源理者については、所属の垣根を超えた運用が例外的に認められている。

この関係から、各秘教機関に狭霧が所属することになった場合、その中から他局の要請に応じるための要員を確保することになっており、霞は天道局においてその役割を担っている一人である。

先述の通り、天候に干渉する大規模源理行使を得意とし、諱が示す通り、霞のような視界を奪う気象を発生させることで、一般の臣民の源理への曝露を防ぐ。攻撃性の高い実体が関わる事案で、実体が視覚を頼りに行動する場合には、その行動を制限するある種の檻として活用されることもあり、環境への干渉に特化した源理者であると言えるだろう。

固有源典は『檻への手向けに黒百合をQ・Q・Q』。隠蔽に利用可能な精神干渉系源理であり、その主要な効果は「正気と狂気の逆転」。源理に曝露した臣民を一時的に狂気に陥れ、正常な認知能力を奪うことで、見聞きしたものが何かしらの幻覚であったという実感を持たせ、結果として源理事案の拡散を防いでいる。

他方で、この種の源典を持つ源理者には、様々な意味でその性格が破綻しているものが多いという俗説に反し、狭霧霞という個人は極めて常識的な人間である。品行方正で規則を遵守し、やや四角四面の感はあるものの、慎みを持った振る舞いというものを心得ている。唯一内面的な欠点を挙げるとするのであれば、事案対処中にもそうした慎み深さを発揮してしまい、情報の伝達に齟齬を生じることがあることだという冗談が局員によって口にされる程度には、その所作についての評判は広まっている模様である。


☆☆☆


宛 天道局局長 鷹司真影殿

152394

発 天道局三等源理者 狭霧霞


――――1899年5月3日付、氷室暗号を用いた暗号電を復号したもの

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