魔法と科学の昔話

フリンジ白霧森林帯

ソルグレイル共和国連邦領内、北コロンビア大陸中西部に位置する高原に広がる森林地帯。数千ヘクタールにも及ぶ面積を誇るが、存在が確認された復興歴1世紀の頃から、そのほとんどが絶え間なく霧に覆われていることでも知られている。

気象条件などは全く異なるが、連邦南部の雲霧林地帯にも匹敵するほど木々が密集して生える部分があることが確認されており、特にその付近では霧も濃密になる。場合によっては自分の眼の前さえ見えなくなるほどであり、地元の住民の案内なしで足を踏み入れるのは自殺行為と同義である。

この事実を経験的に知っている現地民たちは、自身らの管理が行き届く範囲外に立ち入ることを戒めているが、稀にある外部からの来訪者が、その忠告を軽く見て勝手に進入した結果行方不明になってしまう事例は少なくない。

「この場所には悪魔が出る」という伝承さえ伝わっていることもあり、魔物狩りや悪魔祓いが定期巡回路に組み込んで時折様子を見に来ることもあるが、幸いというべきか、現段階では悪魔の発生や凶悪な魔物の生息は確認されていない。

一方、近年この森は大陸東部に向けて延伸されつつある北コロンビア大陸横断鉄道を敷設する候補地として注目されており、その影響もあって、連邦政府による探検隊が編成され、しばしば調査が行われるようになっている。

探検隊に同行した地質学者によって、一部には大規模な鉄鉱脈が存在することが判明しており、開拓が進めば業者による本格的な探鉱も行われる予定。現今の政府による東進政策に沿う形で、この地域にも開発の波が押し寄せてきており、近くこの森も切り開かれていくことだろう。


☆☆☆


霧海の日に気をつけろ。影の向こうに悪魔がいるぞ。

白樹の森に気をつけろ。影の向こうで魔物が笑う。


 ――――クリフォード・カールソン『伝承採録 北コロンビア中部篇』より。

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