第29話
「今から……もう何百年前になるでヤンスかねえ。
まあ、数え切れないくらい昔の話ってことにしとくでヤンス。
リウ・グウよりも遙か上……"地上"と呼ばれる世界にも人間はいた。
そこで、リウ・グウと同じように街を作り、あるいは壊し、文明を謳歌していた。
だがある時……この星を未曾有の災害が襲ったでヤンスよ。
それが "何" だったのか今のあっしは覚えてないでヤンスが、それは当時の世界を四方八方から蹂躙し尽くした、らしいでヤンス。
人類はどうにかして生き延びようと、とにかく手当たり次第に策を重ねた。
ある時は巨大兵器を建造し、
ある時は規格外のアームヘッドを建造し、
そして遂には――"街"をまるまる造り、それを海に沈めた」
……まるで夢物語めいた内容に、己が耳を疑ったミクモがふと手元の端末に目をやる。
モニターがいつの間にか起動しており、そこには例のクラゲ……アイクルのアバターが、ミクモの視線から必死で目を逸らすようにして浮いていた。
「……海中ならあるいは。お偉いさん方はそう思ったみたいでヤンスね。
でも同時に、偉い人達は海中にも魔の手が届くことを予期していたでヤンス。
だから──」
その瞬間。
船体全体が大きく揺れ、
同時にどこかの地点に落着したような衝撃と轟音が走った。
「――だから、"ふたつ" 造った」
「……ふたつ……?」
ミクモが何も理解できないまま、オウムのようにクレアボーヤンスの言葉を返すと、
当の本人は部屋の壁に設えられていた放送設備のスイッチを入れ、冷厳な声音で船内に放送指令を出した。
「こちら船長。当船は母港に帰還したでヤンス。総員下船準備でヤンス。
……さ、来るでヤンスよ。どうせもうすぐ終わる世界でヤンス。
あんさんにはあっしが出来ること全部をプレゼントして、
その後で、この手で直々に、存分に
それがあっしの、キャプテン・クレアボーヤンスの決定でヤンス。
……ほら、いつまでも呆けてんじゃねえでヤンスよ、ガキ」
クレアボーヤンスに促され、ミクモは歩を進める。
来た通路を逆に辿り、エアロックが眼前で解除され、ドアが開いた。
海水は入ってこない。
既に陸地に到達しているのを理解した時、その表情が驚愕に歪んだ。
――
眼前に写った光景を一言で表現するのなら、それが最適だった。
天は人工の空を映し出す事をやめて久しく、その実態が超広大な閉鎖空間である事を無慈悲に指し示すかのように、穴が空き、崩れかけていた。
かつて街だった面影を残すその光景は、すべてが色褪せ、残さず朽ち果てていた。
「ようこそ、ミクモ・コーラルスター」
背後から、その男の声がする。
ミクモが、恐怖とも高揚とも付かない心臓の鼓動の中で、静かに振り返る。
そこにあったのは――クレアボーヤンスの微笑み。
それが湛えている真意を、ミクモは到底察することなど出来はしなかった。
「ここがあっしら、黒い魚影団の『故郷』。
あんさん達が忘れて久しい、死者の都。
世界のすべてに置き去りにされた、中身の腐った玉手箱。
海底都市リウ・グウ、第2号ユニット――『アナザーリウ・グウ』でヤンス」
誰が為の惑星の詩 -I.O.S./Infinite Ocean Song- ブッキー @ibukkey
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