第27話 驚き

「こ、これ……!」


 イラストが表示された俺のスマホ画面を見て、目を大きく見開く白雪。くくく、驚いてる。驚いてる。想像以上だ。


「どうだ?」

「……」


 話しかけても返事が来ない。目をぱちぱちとさせて俺のイラストに釘付けだ。口までぽかんと開いている。


「……白雪?」

「あ、え、ええ。とても上手だと思います」

「だろ!」


 はっと顔を上げ、おずおずと頷く白雪。とうとう白雪に認めさせることに成功した。実にいい気分だ。


 未だに信じられないのか、白雪はまだ眺めている。この光景が見たくて頑張ってきたのだ。やった甲斐があった。


「……これ、本当に黒瀬さんが描いたんですよね?」

「当たり前だろ。秋口に教わりながら描いたんだ」


 他人の書いた絵を自慢して何になる。自分の絵で白雪を圧倒するから意味があるのに。


 白雪は「秋口さん……そういうことですか」と何やら呟いている。


「しかも聞いて驚け。最近ツイッタでバズっててな。昨日なんてシュガー先生からメッセージまで貰ったんだ」

「……っ!?」


 息を呑む気配。ふふふ、驚いているな。俺も最初のメッセージが来た時は驚いた。特に白雪はシュガー先生の有名さを知っているので、どれだけ凄いことなのか伝わってるはず。


「ほら、見てくれよ」


 ツイッタを開いて、メッセージ一覧からシュガー先生とのトークを開く。見慣れたシュガー先生のアイコンだ。


 トーク画面には、俺とシュガー先生の会話のやり取りの数々。と言っても10回もやり取りはないけれど。


「いつかシュガー先生と話せる機会が来たらって夢見たけど、まさか本当に話せるとは思わなくてさ。奇跡だろ、これ」

「……そう、ですね。本当に嘘みたいです」


 ゆっくり絞るように言葉を吐き出す白雪。さては、びっくりしすぎて言葉を失ってるな? いい反応じゃないか。これだよ、これ。こういうのをずっと見たかった。


 普段の鉄仮面はそこにはなく、動揺が顔に出ている。なかなか見られない珍しい光景だ。しっかり目に焼き付けておくとしよう。


「流石に白雪もびっくりしてるみたいだな」

「当たり前です。こんなことがあり得るなんて」

「俺の豪運と実力が成せるわざだな」

「もし本当に黒瀬さんの運なら、凄すぎます」

「だろだろ」


 素直に白雪が誉めてくるなんて。録音しておけば良かった。


「もう嬉しすぎて何回見返したことか」

「そんなに?」

「夢じゃないか確かめたくてな。見るたびににやけが止まらん」

「……喜びすぎでは?」

「うるさい。貰うたびにトキメキが止まらないくらいだぞ? もうこれは恋かもしれん」


 白雪がジト目で見てくるが、こればかりは仕方がない。


「恋って……。まだ相手が女性かも分からないでしょう?」

「そんなことは些細な問題だ。シュガー先生の存在そのものが大事なんだよ」


 異性かどうかなんてどうでもいい。イラスト一つ、言葉一つでこんなに俺の心を満たしてくれるのだから。やはり、シュガー先生は神。


 俺の力説が通じたのか、白雪は大きくため息を吐いた。


「……シュガー先生の印象はどうしてた? 話してみて」

「文字だから分かりにくいが、礼儀正しい感じはしたな。あと、もしかしたら俺に気があるかもしれない」

「はい?」

「向こうから質問が来たんだ。これは脈ありかも」

「馬鹿なんですか?」


 冷め切った視線がぐさぐさ突き刺さる。ひえ。冗談なのに。流石にそのぐらいはわかる。


「……脈ありは冗談としても、凄く絵を褒めてくれたし嬉しかったな。シュガー先生がまた新しいイラストを更新したら、ぜひ伝えるつもりだ」

「そうですね。感想は貰えたら嬉しいでしょうし、送ったらいいと思います」


 白雪が頷くあたり、やはり感想を送るのは問題なさそう。あとは……。


「シュガー先生と仲良くなれると思うか?」

「今のままなら問題はないかと思いますけど」

「一応向こうからだと知らない人が相手な訳だし、あんまりメッセージで感想を送るのはまずいと思うんだが」

「知らない人、そうですね」


 なぜかクスッと微笑む白雪。なにその意味深な笑みは。怖いんですが。


「何かおかしいか?」

「いえ? でも、上手く仲良くはなれると思いますよ?」


 確信めいた声と共に、瞳が一瞬煌めいた気がした。

 

 

 

 


 

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