第26話 テスト結果

「はぁ、やっと終わった」


 長い長いテスト期間が漸く終わった。テスト終了を告げる鐘が鳴り響き、ざわざわと教室が騒ぎ出す。


 答案用紙の回収も終わって、凝り固まった身体を伸ばした。ぱきぱきと骨が鳴る。


 ぐるっと周りを見回す。皆の声は明るい。「この後どこ行くー?」と楽しげな声があちらこちらから聞こえる。


 この1週間はずっと勉強し続けてきたので、息抜きをしたいところ。絵の練習も出来ていなかったので再開していきたい。


 社交辞令かもしれないが、シュガー先生から期待されているかもしれないし、もしかしたら投稿したらまたメッセージが貰えるかも。


 うへへへ、やる気が出てきたぜ。


  ついにやけそうになってると、既に帰りの準備を終えた蒼が寄ってきた。


「蓮、やっと終わったね」

「ああ。ようやくな」

「どう? 調子は?」

「ふ、今回は自信があるぞ」


 テスト対策もばっちり。見直しも完璧に行った。9割は硬い。なんなら満点まである。かなりの手応えに思わず胸を張る。


「そう言って毎回白雪さんに負けてる気がするけど」

「それは言うんじゃない」


 まったく、言っていいことと悪いことがある。

 

 勉強は毎回最善を尽くしていると言っていい。対策はばっちりだし、見直しも可能な限りしている。だが、それでも足りない。

 ほんと、どうなってるんだ、白雪の頭は。


「今回は勝てるといいね」

「勝つさ。必ずな」


 いい加減負けるのには飽きた。10年以上も同じ学校なのだから、一回くらいテストを休んでくれれば、学年一位を取れたのに。

 残念ながら謎に白雪は健康児である。あんな儚い雰囲気を出しておいて詐欺だろ。


 今度こそ一位を取る姿を想像して、自信に満ちながら順位発表を楽しみにした。


♦︎♦︎♦︎


 翌週、全ての答案用紙が返され、成績上位の順位が廊下に張り出された。

 結果は、はい。もちろん負けました。ええ、負けましたとも。


 今回、自分の5教科の点数の合計は491点だった。自己最高である。


 白雪は大体480点台後半で、490点を超えたのは高校入学後の最初のテストの一度きり。これは勝ったと思っていた。それが……。


(満点ってなんだよ。そんなのズルじゃん。チートだろ)


 もはや白雪は公式チートまである。満点って人間じゃないだろ。3位の秋口が453点なのに。


 腐っても進学校のテストなので、それなりに珍しい。400点を超えればかなり上位の成績だ。それが満点は頭がおかしい。なんやねん、あいつ。


 負けるのはやっぱり悔しい。何度経験してもこればかりは慣れない。次こそは絶対勝ちたい。


「ふへへへ」


 ストレス発散のために、昨日もらったシュガー先生からのメッセージを眺める。

 新しいイラストを投稿したら、またしてもシュガー先生からメッセージが来た。


『今回の女の子もすごく可愛いです! 金の犬さんのイラスト楽しみにしてました」


 まさかの大絶賛。もう夢かと思った。

 だが何度見ても目の前に表示されたメッセージは変わってない。昨日と同じままだ。


 さらには向こうから質問まで来た。


『どういった絵の練習をしてるんですか?』


 単純に気になって送ってくれたのだろうが、初めての感想以外のやり取りである。もう3時間は悩んだ。

 結局、普通に友人に教えてもらっていると答えて終わったが。


(ふぅ、思い出してたら、気分も晴れてきたぜ)


 気付けば、負けた悔しさは抜けていた。軽くなった肩で、電車が来るのを待つ。朝なので、少しホームの人が多い。


「黒瀬さん」

「……白雪」

「おはようございます」

「ああ、おはよ」


 直接話すのは、勉強会の時以来である。たまにある乗る電車が被った日か。


「またテスト、学年一位だったな」

「はい。黒瀬さんも二番でしたね」

「次は負けないからな」

「期待してますよ」


 なんとも余裕な表情。これが一位の余裕というやつか。く、悔しい。絶対一泡吹かせてやりたい。


 ふと、そこで思い出す。そもそもに自分が絵の練習を始めたきっかけは白雪が絵を描いていることを知って、負けないために始めたことだった。

 シュガー先生と繋がって、その嬉しさで危うく忘れてるところだった。


 今こそ見せる時だろう。フォロワーも10000人を超えたし、何より猫ヤンキー先生とシュガー先生のお墨付きだ。


 きっと驚くに違いない。くくく、さあ、驚け!


「そういえば、前にちらっと言ってたが、白雪って絵を描いてるんだろ?」

「はい。……見せませんよ?」

「別に無理に見せろとは言わないから安心しろ」


 やはり白雪は絵を見せてくれない。そこまで上手ではない証拠だ。これなら俺の絵を見れば尊敬の眼差しを向けてくれるに違いない。あ、最高だな、それ。


「実はさ、俺も絵を描いててさ」

「え、そうなんですか?」

「2ヶ月くらい前から秋口から教わってた」

「ああ、それで」


 納得したように頷く白雪。


「気付いていたのか?」

「なにをしているかは知りませんでしたが、秋口さんと一緒に放課後よくいるなとは思ってました」


 意外にも認識していたらしい。俺がなにしてようとも眼中にないと思っていたのだが。


「シュガー先生のイラストに憧れて始めたんだ」

「本当に好きですね」

「まあな。ほら、これ」


 まだ見せられる絵は2枚しかない。丁度昨日シュガー先生から大絶賛してもらえたイラストを見せる。


「こ、これ……!」


 予想通り、白雪は目をまん丸くして固まった。


 

 

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