第11話 秋口麗奈視点
私の人生は中学校までは完璧だった。
私が思い描く私の理想通りの学校生活。周りを友達に囲まれ、みんなの人気者で、容姿端麗に成績優秀。
そんな、人から憧れの対象で見られるのが自分だった。
全てが崩れたのは高校に入学してから。入学した当初こそ、これまで通り全部上手くいって、理想の学校生活を送れると思っていた。
けれど、彼女と出会い、初めて勝てないと思った。
白雪凛。その圧倒的な美しさは、女子の私から見ても息を飲むほどのもの。初めて見かけた時は、呆けてしまった記憶がある。
少し動きでさえもどこか優雅で、周りの人の視線を一気に惹き集める。廊下を歩けば、すれ違う人皆が振り向き、教室に佇めば、他のクラスから見に来る人までいる始末。
そんな光景は今まで見たことない。私が歩いても知り合いが挨拶してくれるくらい。
私が誇っていた自分の容姿とは比較にならないほどに、白雪さんの容姿は優れていた。思わず認めてしまうほどに。
ただ、それだけならば私もそこまで気にしなかった。それ以外にも私は自分が誇っているものがあったから。
けれど、白雪さんは容姿だけでなく、成績も優秀だった。
入学後はじめての試験で満点を叩き出し、2位と50点以上の差をつけ、他の追随を全く許さないほど圧倒的な成績を取った。
その時の私は10位。県一番の進学校であることを考慮すれば、いい成績と言えるけれど、白雪さんにだけは負けたくなかった。
勉強なら頑張ればいい。時間を費やして、理解を深めれば、必ず成績は伸びる。そう信じて私は勉強に励んだ。
2回目のテストでは5位、3回目のテストでは3位。以降ずっと私は3位を取り続けている。
けれど、一度も白雪さんには勝てていない。彼女はずっと一位だから。
容姿も勉強も負けて、あと私が誇れるものは人気だけ。
それは知り合いの数という意味で考えれば、私の方が多いけれど、残念ながら勝った気にはなれない。
白雪さんは周りのことなど殆ど気にする様子はなく、友達の数なんて下らないことを考える人ではなかった。
そんな白雪さんを相手に友達の数を誇っても虚しいだけ。
さらには私はずっと運動が苦手でスポーツテストなんかでも酷い点数を取るのだけれど、白雪さんはスポーツも得意でその身体能力は学年一位であった。
もう完全敗北である。
もちろんいつまでも負け続けるなんてことを許せるはずがない。いつかは絶対勝つ、何かしらで絶対勝ってみせる。そう思い続ける相手が、私にとっての白雪さんだ。
「今日、白雪さんが男子に贈り物してるのびっくりしなかった?」
昼休みにお弁当を食べていると、私と仲の良い山峰茜が今朝の話題を口にした。それは私も気になっていた。
これまで白雪さんが男子と交流を持つことはなかった。
義務的な仕事として話しているのは何度か見かけたことがある。けれどあんな贈り物をするような相手はこれまでいなかった。
「そうね。あの二人、仲良いのかしら?」
「うーん、どうだろう。でもこの前、麗奈ちゃんに対して白雪さんのこと庇ってたからね」
「あれは、確かに私が悪かったわ。白雪さんの態度が気に食わなくて、無理矢理追及してしまったもの」
「ふふふ、反省してるなら良いと思うよ。麗奈ちゃんのそういうところは素直だね」
「なによ、私が普段素直じゃないみたいに」
私ほど素直な人はいないと思う。ええ、本当よ?
「前にも下駄箱のところで二人で話してるの見たって噂あったし、やっぱり仲良いのかな」
「……そうね。ずっと同じ学校だとも言っていたしね」
正直意外でしかない。黒瀬蓮はあまりにクラスで目立つ人物ではなく、周りの女子からも気になるなんて話を聞いたことはない。
そんな人が、白雪さんの相手? まだ黒瀬くんと仲の良い蒼の方が納得がいく。
蒼なら女子からの人気も高いし、顔も良い。彼なら白雪さんの相手でも釣り合うと思う。
「麗奈。少しいいかな?」
「っ? 蒼じゃない。どうしたのかしら?」
急に後ろから声をかけられた。振り向くと丁度私が考えていた人、蒼が立っている。さらにその後ろに。
「それと黒瀬くんも」
黒瀬くんと目が合い、互いに視線を逸らす。正直、あの日のことがあるのでかなり気まずい。
どうせもう接することはないと思っていたのに、蒼はどうして連れてきたのかしら?
「確か、麗奈って美術部だったよね?」
「え、ええ。一応」
蒼の言う通り、確かに美術部には所属している。きちんと届出も出しているし、美術部員という意味では間違いない。
けれど行っているわけもなく。
部活に所属するのが強制なせいで、一番楽な部活に所属してるだけだ。
絵も彫刻も全く出来ない。絵については得意な姉にも呆れられるくらい。
そんな気持ちを乗せて曖昧に頷いたのだけれど、蒼はぱぁっと目を輝かせる。
「そしたら、蓮に絵の描き方教えてあげてくれないかな?」
「え、なんで黒瀬くん?」
「蓮が絵の勉強したいみたいでさ。ね?」
蒼が振り返り後ろの黒瀬くんに視線を送る。黒瀬くんは「ああ」と頷く。
「実は白雪が可愛い女の子のイラストを描いているみたいでな。俺も描いてあいつに勝とうと思ってるんだ。あいつに出来て俺が出来ないのは悔しいし」
「えっと、黒瀬くんは白雪さんと仲良いのではなかったの?」
「んなわけあるか。あいつにはずっと勉強で負け続けてるんだ。もちろん、勉強でも勝つつもりだが、絵でも勝とうと思ってな」
「そう。そういうことね」
とりあえず、黒瀬くんが白雪さんにライバル心を抱いていることはわかった。
前に蒼からもちらっと似たような話を聞いたことあるし、その気持ちは充分に理解できる。
黒瀬くんの言動を見る感じ、本気で白雪さんとはそこまで親しくないみたい。けど、それならどうして……。
ずっと白雪さんを見てきた私の勘が告げている。
少なくとも白雪さんは黒瀬くんのことを特別視している。
それは恋愛的な意味かは分からないけれど、その他の男子よりは意識しているのは間違いない。
(……これは利用できる、かも)
黒瀬くんに絵を教えることになれば、必然と二人の時間が出来る。白雪さんが特別視する男子と仲良くなれば、あの白雪さんも悔しがるに違いない。
とうとうチャンスがやってきたかもしれない。
「……絵、教えてくれないか?」
返事を待つ黒瀬くんを前に、もう一度だけよく考える。
黒瀬くんの言い方からして、彼は絵を描く初心者だろう。それなら絵が下手くそな私でも適当にアドバイスをしているだけで誤魔化せる。ネットを調べればいくらでもそういうアドバイスは出てくるし。
「絵を見せろ」と言われたら、姉もそういうイラストを描いているので、万が一には姉の絵を見せればいい。
ネットで有名らしいし、私から見ても上手なので説得力は出せるはず。
あまりに完璧な作戦。黒瀬くんには悪いけど、ここは利用させてもらう。私にとって絶好の機会だもの。逃すわけにはいかない。
「いいわ。教えるわ。今日の放課後からでいいかしら?」
「ああ、頼んだ」
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