常昼の街

その1 ノルメンヘ急げ

「おや……? ネフさん……ではないですね、ようこそエルベスへ」


「……ネフ?」


 からからに晴れた青空の下、白い外壁がきらりと光る。人々で賑わうエルベスの玄関口で、休憩していたゼノは見覚えのある姿を見つけた。

 とんがり帽子に黒髪の、見送ったはずのネフさんがなぜここに?

 しかし声を掛けられて振り返ったその少女は、格好こそ似ているもののネフではないようだ。

 すみません、人違いで……と言い訳しつつ、なんだかデジャブを感じるゼノ。

 一方、少女の方はといえば――。


「――おじさん、ネフって言ったよね? 魔女のネフ・エンケラを知ってるってことだよね? やっぱりここに来てたの?」


 ――目を見開いて機関銃のようにまくし立てた。


「ええ、つい先日までここに……」


「くぅ、遅かったかーっ!」


 少女は叫びながら、がっくりと膝を落とす。

 人の流れがすすっと避けた真ん中で、ゼノはしばし固まっていた。




 電気の街、ノルメン。

 科学技術が盛んに研究されていて、エルベスほどではないものの、高い技術力を誇る街だ。

 ゼノさんからもらった資料には、例の魔女が最後に目撃されたのはノルメンへ続く街道上であることが書かれていた。

 行方についての有力な情報はそれのみで、あとは魔女の容姿や特徴の分析、考察などがまとめてある。

 ――黒いとんがり帽子、全体を覆う黒いマント、肩に箒を担いでいる。身長は一五〇センチ弱、顔はほとんど帽子とマントでかくれていたが、ハシバミのような色の瞳だけは確認できたらしい。

 そして全体的に暗い雰囲気を漂わせていたという。


 ――雰囲気以外、まんまネフだ。


 実際最後にも、報告書作成時点にエルベスを訪問中の魔女ネフ・エンケラに酷似した外見である、と記されている。

 もしかして魔女はみんな似たような格好なのかとネフに聞いたら、違うらしい。 

 

 「帽子とマントは基本だけれど、みんなが箒を持っているわけじゃないわ。それに素材とか色とか形とか、魔女ひとりひとり違うものよ」


 私の帽子は一点ものだし、真似でもしないと同じ格好なんてあり得ないわ、とネフ。それに魔女の知り合いなんてコノハしかいないし……と付け加える。

 そうなるとますます、ネフと瓜二つのそいつは追っている犯人に間違いないだろう。

 

 ――三ヶ月。犯人はまだノルメンにいるだろうか。


 間に合うか否かは一旦考えないようにして、その差をとにかく埋める。

 エルベスを出発してからの三日間、スロットルは限界ギリギリまで上げたままだ。


「――レノン、もしかして具合が悪いの?」


「いや、大丈夫だよ。どうしてだい」


「……なんだか、張り詰めた顔をしているから」


 ――しまった、顔に出ていたか。

 だけどネフに励ましてもらったばかりだし、また心配をかける訳にはいかない。

 僕は笑顔で返事をする。


「緊張しているだけだよ。ノルメンは初めて行くからね」


「あら、これまでの街だって初めてだったじゃない。変なレノン」


 小さく笑った声が聞こえて、僕は胸を撫で下ろした。





(その2へつづく)

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