その18 三ヶ月
エルベス町長、ゼノは報告書を読む手を止めて、ため息をついた。
落としたら鈍い音がするくらいに高く積まれた書類の中身は、エルベス各区画の状況データ。食料生産システム、人工光源システム、その他もろもろ――もちろん、停止していたエネルギープラントとプラントラインのデータもある。
長い事エネルギー生成が出来ず、滅びの危機に瀕していたエルベスだったが、現状では全てのデータが正常値を示していた。
エルベスは、通りがかりの魔女と冒険者のおかげで危機を脱することができたのだ。契約したとはいえ、彼らは救世主。ゼノは報酬も倍額を支払うつもりだった。そして直接、感謝を伝えたかった。
しかし、それは未だに成せていない。
「――町長、よろしいでしょうか」
「……ルノウ君か」
白髪をなびかせ、ルノウは軽く頭を下げる。
そのまま、口を開いた。
「……残念ですが、今回の実験も不発です。制御区画の扉は貫通できませんでした」
「――そうか。報告ありがとう。次を試してくれ。それから、他の魔女はまだ見つからないか? この際自称でもいいから、可能性のある人物は全て連れてきてほしい。一刻も早く内部へ入らないと、間に合うものも間に合わなくなってしまう」
「はい。……ですが町長、間に合うかどうか……。もう三ヶ月も……」
「わかっているよ。でも可能性はゼロじゃないんだ。ならば救出を続けるべきだ」
「――ああ、私が二人を行かせなければ! こんなことにはならなかったのに……!」
ぐい、と下を向くルノウ。爪が食い込んだ拳に血が滲む。あのとき制御区画に向かった三人のうち、戻ってこれたのは強制排出された彼女だけだった。送り出した二人を迎えに行くこともできず、突然制御区画は彼女を放り出し、扉を閉ざしてしまったのだ。
「落ち着きなさい。君の判断が間違っていた訳では無い。我々の責任ではあるが、避けることができなかった事態なのだ。だから諦めるわけにはいかない」
たとえ亡骸になっていたとしても……と続けようとして、ゼノは言葉を止めた。
視界が揺れている。……いや、庁舎が揺れている?
「……地震……でしょうか……?」
「だとすれば珍しい事だが……待て、何だか近づいて来ていないか?」
二人は足元を見た。振動の源が下にある感覚。
それも、どんどん大きくなっている……!
「――逃げるんだ、ルノウ君ッ!」
ゼノとルノウが飛び退いた直後。
床と壁が吹き飛んだ。
唐突に振動が止まった。
間髪を置かずに、籠もっていた音が薄く拡がっていくのを感じる。しゅう、と小さく、床下からも音がした。
「……到着かしら? あら、マナの量はもとに戻ってるわ」
「……ああ、音の違和感も無くなってる。地上に着いたみたいだ」
ネフの手をひいて立ち上がると、ゆっくりとハッチが開き始めた。照明が暗くなり、かわりに外の光が差し込んでくる。
……さて、僕らは地上の、果たしてどこに着いたのだろうか。
……
…………
………………。
「――――まさか」
「――――奇跡だ、よくぞご無事で……!」
―――着いたのはなんと、ちょっとびっくりし過ぎな、しかも何故か涙を流したルノウさんとゼノさんの真ん前だった。 ……それも床をぶっ壊して。
(その19へつづく)
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