その5 ちょっぴりダイバート
数分ほど飛ぶと、森の中にぽつりと明かりが見えた。
「あそこよ。見える?」
「ああ」
近づくにつれて、それが二階建ての家だとわかった。まわりの木は切られていて、こじんまりした庭が広がっている。
「庭の隅っこが原っぱだから、そこに降りてね。くれぐれも花壇には近づかないで。大事なハーブが死んじゃうし、爆発する花もあるから」
「ちょっと待って」
片手を挙げて、僕は地上を見下ろした。
家のまわり、ひらけているのはせいぜい一○○メートルほど。風つかみが着陸するには狭すぎる距離だ。
「もう少し広いところないかな? 降りるにはちょっと足りないんだけど」
「え、どうして? その機械、一○メートルくらいの大きさじゃない」
こてんと首をかしげる魔女。何が問題なのって顔でするすると横に来た。
「あそこの上で止まって、そのままスーッて真下に降りればいいだけよ」
いや無理だって。なんだその動き。
「これ、そんな動きはできないんだ。鷹みたいに斜めに降りなきゃだし、降りた後もすぐには止まれないんだよ」
「そうなの? 不便なものね……。どうしようかしら」
「あ、君の魔法でなんとかなるかも。前から風で押してくれればブレーキになるはずだから——」
「残念だけどそれはできないわ」
「え?」
「地面に近いとマナが混ざりすぎてて、魔法の難度が上がるの。さっきも言ったけど、わたし光属性でしょ? だから光魔法は大丈夫だけど、風魔法は使えないわ」
「杖を使ってもダメなのか?」
「ええ。というか、地上では光魔法でさえ杖を使うわ」
「そうなんだ……。不便なものだね」
「ぐぅ……」
ネフはぶんぶん首を振って問う。
「じゃあ、どのくらい広ければ降りられるの?まさか、湖くらいだとか言わないでしょうね」
「流石にそこまでは。半径三○○メートルくらいは欲しいかな」
「ふぅん……なら、向こうの崖の上はどうかしら」
「崖?」
ええ、と指が示す先には、切り立った岩肌が鎮座していた。
「あの上、ここからはゴツゴツしてるように見えるけど、実際は小さい原っぱなのよ。それに地上からの高さもあるから、ぎりぎり風魔法も使えるわ」
なるほど、頷いて目を細める。ここから四、五キロ先ってとこか。
操縦桿を引いて高度を上げると、確かになだらかな草地が光っていた。
見る限りでは、十分な広さがありそうだ。
これで降りる目処はたったけど……。
崖を降りてここまで来るには、ちょっとばかし時間がかかりそう。
「崖の上からこの家まで、近道とかあるかい?」
「無いわね」
無いのかよ。
でも心配いらないわ、と魔女は笑った。月明かりが木の柄を照らす。
「わたしの後ろに乗せてあげる」
(その6へつづく)
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