第21話 月夜様が来る!
「失礼します… 」
説教を受けた亜美は、テンションがだだ下がりの状態で月夜の元から、帰ろうドアノブに手を掛けた瞬間―
「ああ、そうそう言い忘れていました。待ちなさい、アミス」
「まだ、お小言ですか?」
亜美はげんなりとした表情を浮かべて、振り返って上司である月夜の顔を見る。
「違います。いえ、それに近いかもですが…」
「? …どういうことでしょうか?」
要領を得ない回答をする月夜に、亜美は首を傾げる。
「貴女、本部のデータベースにアクセスしたそうですね?」
「はい、地上で怪しい黒ずくめの男を見つけたので。それが何か?」
先程までの説教モードとは打って変わって、急に真剣な面持ちになった月夜に戸惑いながらも、亜美は正直に答えた。
「その男の事は忘れなさい」
「それは、また何故ですか?」
月夜の指示に疑問を持った亜美は、思わず聞き返すが彼女は理由を説明せずにただ一言だけ発する。
「何故でもです」
有無を言わせないその迫力に圧倒された亜美は、何も言い返せなかった。
ただ、やはりあの黒い男が、只者ではないということだけは確信する。
青年と対峙したその夜―
「ええ~!? またあの黒い男と遭遇したの!? あれほど、ダメって言ったじゃない!」
俺と悠から報告を聞いた亜美さんは、ストロング缶片手に俺達を窘めてきたが
「いや、亜美さんが本屋に行けって言ったんじゃないですか」
「そう… だったかしら…?」
俺が反論すると目が泳ぎ始める。どうやら、忘れていたようだ。
そこに悠が怒りを顕にして、亜美さんを問い詰める。
「亜美さん! 私達がピンチになっていた時、何をしていたんですか!? 見守っていてくれたんじゃないんですか!?」
「えっ!? いや… それは… その… ごめん……」
悠の問い詰めに亜美さんは途端に勢いを失い始めた。その様子からは、さっきまで感じていた威厳は全くなく(元から無かったが…)、完全にポンコツモードに突入している。
「まあまあ、悠。落ち着いて」
俺はヒートアップしている悠を宥めると、亜美さんにフォローを入れることにした。
「亜美さんには、何か急ぎの用事があったんだよ。ですよね? 亜美さん?」
「そ、そうなのよ! ちょっと、急な仕事が入ったのよ…。それで忙しくて手が離せなくてね。それで…… ごめんね」
目を泳がせながら亜美は必死に弁明するが、悠はそんな態度の亜美さんを怪しんでいる。
「とっ とにかく、今後は本屋には暫く近づかないこと! あの黒い男と会ってもすぐに逃げること! いいわね!」
これ以上追及されてボロが出る前に、亜美さんは話題を変えるべく、強引に話を締め括った。
「わかりました」
「はーい……」
俺達は亜美さんの言う通り、しばらくは本屋に行かないことに決めて、その日は解散となる。
そして、次の日の学校帰り―
「智也、亜美さんから連絡があって、4時半に家に来てほしいんだって」
「亜美さんから? 一体なんだろう?」
悠から亜美さんからの呼び出しを聞いて、疑問に思いつつも俺は一度自宅に戻ってから、亜美さんの家へと向かう。
すると、亜美さんはいつもなら家の中ではラフなルームウェアを着用しているのに、今日はバシッとしたオフィスカジュアルな服装を身に着けている。
「亜美さん、どうしたんですか? そんなバッチリとした格好をして……? 思わずデキるキャリアウーマンに見えましたよ?」
「そう…… ありがとう……」
いつもなら、この俺の皮肉に「失礼ね! いつもデキるキャリアウーマンだっつーの!」とか言い返してくる筈なのに、どうやらそのような余裕が無いようだ。
俺がその態度に訝しがっていると、悠がその答えを話し出す。
「どうやら、月夜様がここに来るみたいなの」
「月夜様が!?」
俺は驚きのあまり大声を出してしまった。
月夜様と言えば、以前聞いた所によるとこの太陽系の治安を守る【宇宙警察太陽系支部】の【副支部長】で、亜美さん曰く「厳格で沈着冷静、知的で規律を重んじるが、面倒見が良くて優しい人」らしく、悠は「憧れの完璧なキャリアウーマン」らしい。
あと月の裏にある【宇宙警察太陽系支部】のサポートメカを、全てうさぎ型にする可愛らしい一面もあるようだ。
その月夜様がわざわざここへ来られるなんて、一体何事だろうか?
「どうしてまた、月夜様が来ることになったんだ?」
「それは、【特別保安官】になった智也に会いに来るんだよ」
俺の質問に答える余裕のない亜美さんに変わり、悠が続けて答えてくれた。
「えっ!? 俺に!?」
その言葉に俺は驚くと同時に、自分が当事者となったことで緊張し始める。
「智也君! くれぐれも月夜様に粗相が内容にね! いつものような軽口とか叩かないでよ!? あと下ネタぶっ込むのとか絶対に止めてよ!? これ振りじゃないからね!?」
亜美さんは焦りまくって、俺に念を押してきた。
(軽口はともかく、下ネタぶっ込んでくるのは亜美さんじゃないですか!)
俺が亜美さんの言葉に、心の中で抗議の声をあげる。今の緊張に支配されている俺にも、言葉に出して亜美さんと舌戦をする余裕がないからだ。
「とにかくお願いよ? 君が粗相すると後で私が指導不足で怒られるかもしれないから……」
「わっ わかりました……」
亜美さんが懇願するように言ってきたので、俺は思わず素直に了承する。しかし、こんなに怯えている所を見ると、亜美さんが今までどれだけ月夜様に怒られて来たのか容易に想像できる。
そうこうしているうちに玄関のチャイムが鳴らされ、家中に響くその電子音が月夜様の来訪を告げた。
「はっ はい……」
その音を聞いた亜美さんはビクッと体を震わせて、慌ててインターホンを取り恐る恐る応対する。
「〇〇新聞です~。よかったらうちの新聞を― 」
「紛らわしいんだよ! 新聞なら間に合ってるから、さっさと帰れ! この○△野郎!!」
「ひいっ!?」
亜美さんはインターホン越しに相手が怯むほどの剣幕で怒鳴ると、そのままインターホンを叩きつけるようにガチャ切りした。
(この人、どんだけ月夜様が怖いんだよ…)
俺がそんな亜美さんの態度に唖然としていると、チャイムが鳴らされる。
「はっ はい……」
亜美さんは再びインターホンを取り恐る恐る応対する ―が、
「✕✕新聞で― 」
「うるせーよ! 新聞なら間に合ってるよ! ○ろされたくなかったら、さっさと帰れ! このバカっ!!」
「ひいっ!?」
亜美さんは相手の言葉を遮って、再びインターホンを力任せに叩きつけてガチャ切った。
インターホン越しに相手が怯むほどの剣幕で怒鳴ると、そのままインターホンを叩きつけるようにガチャ切りした。
すると、10秒と経たない内にチャイムが三度鳴らされたので、”二度あることは三度ある”と思った興奮状態の亜美さんは、インターホンを取ると最初から怒鳴りつけた。
その一連の光景を見て、超能力開発された俺と悠の第六感がこう告げる。
(これは、わかりやすい前フリだ!)と…
「しつけーんだよ! こっちは今忙しいのよ! お前の相手してる暇なんかねーよ! とっとと帰れ!」
「……? あっ あの…… 今日、合う約束をした月夜ですけど?」
インターホン越しに聞こえた声は、凛としていて透き通るような美しい声で、どこか気品を感じるものだった。
その声を聞いた亜美さんは、一瞬フリーズした後に慌てて玄関へと駆けていく。
「もっ 申し訳ありません月夜様! てっきり、新聞の勧誘だと思って……」
そう言いながらドアを開けた亜美さんは、月夜様を招き入れる客間に通す。
そして……
「ホントすみませんでした! ホントすみませんでした! ホントすみませんでした!」
見本のような綺麗な土下座を披露して謝罪する。
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