第22話 新たな仲間





 客間では、月夜様と机を挟み俯いたまま正座する亜美さんと俺が座っている。

 すると、人数分のお茶を持ってきた悠は、お茶を机に置くと月夜様は「ありがとう」とお礼を言うと、俺の隣に座った悠に話しかけた。


「お久しぶりですね、悠さん」

「はい、ご無沙汰しております」


 二人は笑顔で挨拶を交わす。


「アミスが迷惑を掛けていませんか?」

「いえ、亜美さんにはいつもお世話になっています」


「そうですか、それは良かった」

(おお、流石は悠! 空気が読めて気の利くいい女だな)


 俺は二人の会話を聞きながら心の中で称賛を送る。“嘘も方便”という言葉があるがまさに今の状況を表す言葉だろう。


 ここで正直に「亜美さんに(主に酒で)迷惑を掛けられている」と、正直に答えたら亜美さんの立場は更に悪くなり、また月夜様からお小言を受けたのは明白であった。


 その事を理解している亜美さんは、「ありがとう、悠ちゃん!」というような感謝のこもった瞳で、悠のことを見つめている。


「中田智也君、今日、来たのは君に【特別保安官】になる覚悟が本当にあるのか確かめに来ました」


「はい、あります!」


 月夜様にそう問われたので、俺は力強く答えるとそれに対して、月夜様は厳しい表情で問いかけてきた。


「例え超能力を使用できても命懸けの仕事なので、当然死ぬこともありえます。それでも、貴方は【特別保安官】になることに後悔はないのですか?」


「はい、勿論です! 俺はこの国のために… 悠や亜美さんを助けるために、一緒に戦うつもりです!」


 その問いに対して、俺は力強い言葉で即答する。月夜様は、俺の返事を聞くと真剣な顔でこちらを見据えてきた。


 俺はそんな月夜様の目を見ると、自然と背筋が伸び緊張してくる。

 すると、月夜様は口を開く。


「わかりました。では、これから少しの間だけ時間を貰います」

「えっ? それってどういうことでしょうか?」


 月夜様の言葉の意味が分からず質問する。


「アナタ達に会わせたい者達がいます」


 そう言った月夜様は、巫女のような上着の袖から端末を取り出すと、操作して誰かを呼び出す。


 すると、5分後にチャイムがなり、さっきやらかした為か亜美さんは、悠に対応を任せたので、彼女はリビングに向かう。


 そして、数分後に20代ぐらいの若い男女を客間に連れて来た。

 男女は客間に入室すると、背筋を伸ばして月夜様に敬礼する。


「カズマ・トーヨフツ警部、お呼びにより参上しました!」

「同じくノーナ・ヒナスコ巡査部長、参りました」


 そんな二人のビシッとした警察官らしい姿を見た俺は、ついつい亜美さんと見比べてしまう。


(何よ…、その目は!? まるで、私が二人に比べて駄目な警察官みたいな目じゃない!)


 俺の心を読んだかのような亜美さんは、不機嫌そうな表情で俺を睨みつけてきた。


(いや、アナタの普段の行動を見ていたら、そう思われても仕方ないでしょうが!?)


 亜美さんと俺は月夜様の前なので、黙ったまま目に思いを乗せ睨み合いで言い争いをする。

 そんな俺達を尻目に、月夜様は二人を読んだ説明を始めた。


「今回、二人は他の犯罪者を追ってきたのですが、特別に今回の失踪事件を協力して貰うことになりました。二人は優秀な捜査官なので、智也君と悠さんは二人の指示に従って事件解決に臨んでください」


「「はいっ! わかりました!」」


 月夜様の説明を聞いた俺と悠が、月夜様に向かって元気よく返答する。

 しかし、俺は疑問に思ったことを口に出した。


「あの…… でも、どうして俺と悠だけなんですか? 他にもいるんじゃ……」


 俺はそう言って、亜美さんの方を見る。

 すると、月夜様は大きくため息をついてから、苦笑いを浮かべつつ亜美さんをチラリと見ながらこう答えてくれた。


「アミスは… この子はこう見えても、幹部候補生… 所謂キャリアだから、現場には出ないのよ。というか、出さない決まりなのよ」


「そ、そうなんですか……」


 俺は納得しながら亜美さんに視線を向ける。すると、彼女は俺と目が合うと気まずそうに目線を逸らしたので、俺は少し驚いてしまう。亜美さんの事だから、ドヤると思ったからだ。


 どうやら、俺や悠だけ危険な現場に出して、自分が出ないという事に引け目を感じているようで、そういう所が悠の懐いているところなのだろう。


 こうして、俺と悠はカズマさんとノーナさんの元で、失踪事件に挑んでいくことになった。

 月夜様が帰った後、残された俺に悠が嬉しそうな顔で話しかけてくる。


「えへへ~ 智也… ボクね… さっきの“悠を助けるために一緒に戦う”って、言葉凄く嬉しかったよ♡」


「悠…… お前…… “や亜美さん”の部分が削れているぞ?」

「あっ、本当だ! まあ、いいじゃん。亜美さんのことなんて♪」

「ちょっと、悠ちゃん。お姉さんの扱い酷くないかしら?」


 そんな感じで仲良く話している俺たち三人を見て、カズマさんは笑顔で自己紹介をしてきた。


「改めて自己紹介するよ。俺は宇宙連邦捜査局所属の捜査官、カズマ・トーヨフツ警部だ。よろしくな!」


「同じく宇宙連邦捜査局所属の捜査官のノーナ・ヒナスコ巡査部長です。よろしくお願いします」


 そう言って二人が握手を求めてきたので、俺達も握手をしながら自己紹介をする。

 そして、俺と悠が終えた後に、亜美さんが自己紹介をした。


「宇宙連邦警察所属、アミス=イーオケアイラ警部です。よろしくお願いします」

「「えっ!?」」

「えっ!?」


 俺と悠は、亜美さんのちゃんとした挨拶と階級の高さの2つの驚きに思わず声に出してしまい、俺達のその予想外の反応に亜美さんも思わず驚きの声を出してしまう。


「もう! 何よ、悠ちゃんまで! 私の事をどれだけ駄目なお姉さんだと思っているのよ!?」


 プンプンと怒っている亜美さんに対して、悠は苦笑いを浮かべながら不機嫌そうなお姉さんを宥める。


 因みにキャリアである亜美さんは、悠との不幸な事故が無ければ、今頃は警視に昇進して本部勤務だったらしい。



 カズマさんはそんな俺達のやり取りを見ていたが、”コホンッ”と咳払いすると捜査会議を始める。


「それで、今回の捜査方針だが… 被害者達が最後に目撃された場所から考えて、犯人は恐らくこの近辺にいる可能性が高いと思うんだが、皆の意見はどうかな?」


 カズマさんの言葉を聞いた俺達は、それぞれ意見を言い始めるが、亜美さんが胸元で小さく手を上げながら、このような事を言い出す。


「あっ あの…… 実はもう発見済みなんですよね…。犯人のアジト…… 」


「「「「え!?」」」」

「「「「えぇーっ!!」」」」


 亜美さんのカミングアウトに、俺達は同時に驚きの声をあげてしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る