第16話 再会の時の秘密 その2






 二人の説明で、平行世界では無いことは解った。

 そうなると、俺にはとても重要な疑問がひとつだけある。


「ここが平行世界で無いとすると… 俺のお宝が全て【幼馴染モノ】になっていたのはどういうことか聞かせて貰いましょうか……? 亜美さん!?」


「ええっ~!? なになに!? どうして、そこで私へだけの名指しなの?! 悪いことは全て私なの!? 偏見よ、偏見!」


 突然の冤罪をかけられた亜美さんは、驚きの声を上げると抗議してくるが、これまでの経験上このパターンの場合、間違いなく彼女が犯人だと思われる。


「怒らないので、正直に言ってください」

「ほんとぉ…? 私の事怒らならない?」


 悠の真似をして、潤んだ瞳で上目遣いをして聞いてくる亜美さん。中身は残念だが容姿は完璧な人なので、その姿は弟子と同じくらい魅力的だ。


「大丈夫です。さあ、早く教えて下さい」


「わかったわ……。あれは智也君と悠ちゃんが再会した日… ほら、君の家の前で会ったでしょう?」


「会いましたね……。まさか!?」


 俺はあの日の光景を思い出して思わずハッとなり、亜美さんはコクリと首を縦に振る。


「実はあれはね… 智也君の家に侵入して、すり替えた後の事だったのよ… ねぇ~」


「【飲酒運転】に【人身事故】… 次は【不法侵入】プラス【窃盗罪】ですか……。アナタ… 本当に警察官なんですか?」


「うぅ……。だから、さっきも言ったじゃない。私は悪くないのぉ~。全て不可抗力なのぉ~」


 泣き出しそうになる亜美さん。俺は呆れ果ててため息を吐く


「そもそも、どうして入れ替えたんですか?」


「それは、悠ちゃんが【特別保安官】になる時に、私が“智也君との事を上手くいくように手伝う”って言ったのを覚えてる?」


「そう言えば、そんな(馬鹿な)事を言っていましたね……。まさか!? その一環ですか!?」


「ピンポン~! 正解~! 君の性癖を悠ちゃんの”幼馴染属性”に変えようと思ってね~。ほら、あの時… 私トートバッグを持っていたでしょう? 実はあの中にすり替えた君のエッチな本が入っていたのよね~」


 俺から目線を逸しながら、亜美さんはあの日の真相を語る。


「この外道がーー!! 貴方のした事は鬼畜にも劣る所業ですよ!?」


 男なら俺の怒りを解ってくれるはずだ。自分の大事なお気に入りのお宝(紳士本)を全て奪われ、代わりに違う性癖のモノにすり替えられた俺の哀しみを!


「智也君の嘘つきーー!! お姉さんのこと怒らないって言ったのに、やっぱり怒ったじゃないー!!」


 涙目になって抗議してくる大人の女性の亜美さん。


「怒りますよ!? こんな仕打ちをされて、男なら怒らずにいられるわけ無いでしょ!?」

「だって、悠ちゃんの応援をしたいんだもん……」


 唇を尖らせて拗ねる亜美さん。どうやら、彼女は本気で言っているようだ。

 俺は亜美さんのその可愛らしい仕草に、何だかんだ普段は大人の女性である彼女とのギャップにドキッとしてしまう。


「智也…、亜美さんを許してあげて! ボクの事を思ってしてくれたことだから!」


 悠は俺の目を見つめながら、必死に訴えてくる。


 俺の性癖をねじ曲げようとしたのは許せないが、それでも亜美さんが悠のためにしていたことなのは間違い無い。


 それに、もし俺が逆の立場でも悠と同じことをしたかもしれない。いや、それはない。絶対にない。


「そうだな……。確かに亜美さんのやったことは最低だけど、それでも悠のためを思っていた事には違いないか……」


「そうよ! そうよ! お姉さんは、悠ちゃんのことを想ってやったの! ”最低”というのは引っかるけど…」


「わかりました……。すり替えたお宝本を返してくれさえすれば、今回の事は水に流します」


 すると、亜美さんはバツの悪そうな顔で、俺から顔を逸らす。

 まさかと思って、悠を見ると彼女も同じ様な表情で、俺から顔を逸らす。


 嫌な予感がする。そして、こういう時の俺の勘は大体当たる。

 俺は恐る恐る亜美さんの方を見る。


 すると、彼女は視線を逸し口ごもりながら、俺のお宝たちの末路を語り始めた。


「えーと… あの… 智也君の… エッチな本は… ね? その… あの後に… 悠ちゃんが…… 燃やした… と言いますか… 処分した… と言いますか…」


「なん… だと… !?」


 俺が悠を見ると、申し訳なさそうな顔で、コクリと小さく首を縦に振る。

 なんてこった……


 あれらは、俺の宝物であり生き甲斐なのに……


「ゴメンなさい! 智也!」


 悠は、俺に向かって勢いよく頭を下げる。


「ボクが智也のエッチな本の代わりになるから、それで許して? ね?」


 そして、俺の隣まで来るといつもの潤んだ瞳からの上目遣いに、プラスでオプションとして胸を俺の腕に押し付けてくる。その感触は柔らかった。


 俺が欲望と葛藤していると視界に入った亜美さんは、ニヤニヤしながら空気を読まずにこのような事を言ってくる。


「お姉さん、2~3時間ほど家から出ていたほうがいい? それとも、今日はもう帰ってこないほうがいいかしら?」


「そこにいてください。お願いですから……」


 俺は悠の誘惑に耐えながら、亜美さんにお願いする。


 因みに亜美が、智也の家に侵入― もとい潜入した理由はもう一つあり、それは彼の家のアルバムから、男の子悠が映っている写真を女の子悠の写真と入れ替える事であった。


 すり替える写真は、事前に悠が所持しているアルバムの写真を加工したものだ。


「どうして、姉妹設定にしたんですか? 従姉妹設定でも良かったんじゃないですか?」


 俺の質問に亜美さんは、少しドヤ顔で答える。


「だって、【美人姉妹】のほうがインパクトあるじゃない?」

「……」


 亜美の答えに俺は呆れて何も言えない。

 それを察した亜美さんは、直ぐに本当のことを話し出す。


「それに姉妹の方が、従姉妹よりも長期滞在しても違和感がないでしょう?」

「長期滞在するつもりなんですか?」


「勿論よ。だって、この家を【宇宙警察太陽系支部地上特別施設】にするつもりなんだから」

「はあぁ!?」


 亜美の発言に、俺は驚きの声を上げてしまう。


「そんなに驚くことでもないんじゃない? だって、悠ちゃんは【特別保安官】なんだから、何も可笑しくはないでしょう? まあ、そう言っても取り敢えずは、最近この辺りで起きている失踪事件を解決するまでって考えているけどね」


「悠が…… 【特別保安官】…… 危なくないんですか?」


 俺が心配になって亜美さんに聞くと、彼女は先程よりもドヤ顔でこう答えてくれた。


「大丈夫よ。だって、私が付いているもの!」

「全然、大丈夫には思えません」


 俺は即答する。だって、今までの亜美さんの言動を見てきたら、不安しかないからだ。

 そんな俺に対して、亜美さんはすぐにツッコミを入れてくる。


「酷い!? お姉さんって、智也君の中でそんなに頼りない存在になっているの!?」

「はい……。     あと犯罪者……」


「犯罪者じゃないですー! 示談成立で不起訴になっていますー! だから、前科者じゃないですー!」


 最後に小さい声でボソッと呟いたのに、流石は宇宙人。亜美さんは聞き逃さずに、少し子供っぽい反論をしてきた。


【不法侵入】と【窃盗罪】は、まだ示談は成立していない。

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