第15話 再会の時の秘密 その1
「―というわけで、その後私が悠ちゃんに女の子としての振る舞いや生き方を教えたので、今の悠ちゃんは正真正銘の女の子になりました~」
亜美ことアミス=イーオケアイラさんが嬉しそうな声で、報告を終えると悠は立ち上がってスカトートを靡かせながら、その場でクルッと回転して女の子アピールしてくる。
「よかったわね、智也君。こんな可愛い彼女ができて、しかもエッチなことし放題よ!」
満面のドヤ顔でサムズアップしてくる亜美さん。年上に対して失礼だとは思うが、今すぐ頭を叩きたい。
「もぅ~ 亜美さんたら~」
そして、照れながらもまんざらでもない様子の悠。
こっちは、今すぐ抱きしめたい。元男幼馴染でなければ……
「悠…… 月夜さんに教わったほうが良かったんじゃないか?」
俺は遠回しに女性の事について、教わる相手を間違えたことを悠に示唆する。
「ちょっと、智也君! それって、どういう意味!? お姉さんが女としてダメだって言いたいの!?」
だが、そこは流石優秀な亜美さん、直ぐに気がついて俺の発言に噛みついてくる
「女としてと言うか… 人としてどうかな… と思いまして…。飲酒運転するような人に教えられるのは……」
(まあ、女性としても”ん?”とは思うけど…)
「ぐっ…… それを言われると言い返せないわね」
俺の言葉を聞いて、言葉に詰まる亜美さん。
「まぁまぁ二人とも落ち着いて……。亜美さんは、罪を償ってくれたし、ボクにもとても優しくしてくれたんだから。それに、“罪を憎んで人を憎まず”だよ?」
「悠ちゃん!! ホント悠ちゃんは良い子ね~。どこかの童貞野郎と違って」
悠のフォローに感動したのか、悠のことを抱きしめてくる亜美さん。
だが、最後の一言で全てが台無しだ。
「そういうところ! そういうところが残念要素なんですよ! だから、彼氏ができないんですよ! あと、どっ、どっ、童貞ちゃうわ!」
「なんですって!? 自分だって、彼女できたこと無いクセにー!」
「智也~。童貞じゃないって、どういう事? ボクに詳しく話してくれないかな~」
悠まで参戦してきたので、ストッパー役が居なくなり場は混沌と化した。
そのため10分ほど言い争った後、ようやく頭を冷やした俺達は会話を元の悠の話に戻す。
「直ぐに会いにこなかったのは、【特別保安官】の訓練もあったけど、その間に完璧な女の子になろうと思ったからなんだ。そのほうが、再会した時に智也の心をゲットできる可能性が高くなると思ったから」
「じゃあ、電話からメールに切り替えたのは、自分が女の子だということを隠して、直接会ったと時に驚かせようと思ったからか?」
「うん。そうだよ~」
「なるほど……」
クスクスと笑う悠を見て、俺は苦笑いを浮かべる。
だって、その思惑通り俺は再会した悠にときめいてしまっていたからだ。
「でも、驚いたよ~。だって、智也には【催眠】が効いてなかったんだもん。おかげで平行世界設定になって、ややこしくなっちゃうし……」
「んん?」
(おい、今なんて言った? 【催眠】… だと?)
聞き捨てならない単語が聞こえてきたため、悠に確認する。
「えっと…… 今、なんと? 確か… 催眠って聞こえたような気がするんだけど…?」
すると、悠は可愛らしい笑顔から一転して焦った表情になり、額からは汗がダラダラ流れ始める。そして、視線をキョロキョロさせて、何か誤魔化そうとしているようだ。
「えっ!? き、気のせいじゃないかな~? そんなわけないじゃん。催眠とか…… 漫画の見すぎだよ~。アハッ… アハハハ… 」
だが、その態度は余計に怪しい。
悠は亜美に視線を向けて助けを求めると、彼女はハンドサインで指示を出し悠はうんうんと頷く。
そして、即実行してくる。
「ねえ~、智也~。そんなことより~ ボクの今日の下着が何色か~ 確かめたくな~い?」
悠は彼女なりに妖艶さを出しながら、そう言ってスカートの裾をゆっくりと上げていく。
うん、安定の亜美さん指示だ。
だが、その指示は的確であり、俺は一瞬何もかも忘れて顕になっていく悠の太ももに、目と意識が釘付けになってしまう。
実行者のウブな悠は恥ずかしさのあまり、色白の肌を耳まで真っ赤にして涙目になり、下着が見えそうな所で手を止めてしまう。
そして、悠は意を決するとスカートを捲くりあげようとしたが、俺はその手を慌てて掴み防ぐと捲り上がったスカートを下げさせる。
「ちょ、ちょっと待て! 何してんだよ!?」
「うぅ~ だって、亜美さんが……。ボク、智也に嫌われたくないよぉ~。せっかく女の子になれたのにぃ~」
催眠の件で、俺に拒否されてしまうと考えた悠は、思わず泣きだしそうになってしまう。
「別に怒ってないから、ただ真実を知りたいだけだ」
「ほんとぉ…? ボクの事嫌いにならない?」
潤んだ瞳で上目遣いをして聞いてくる悠。その姿は反則的に可愛いかった…。
正直、このまま押し倒して下着の色どころか色々確認したくなったが、俺は格闘技で鍛えた鋼のメンタルで欲望を抑え込むと悠の肩に手を置き、真剣な眼差しで彼女の顔を見つめる。
「こんなことぐらいで、幼馴染を嫌いになるわけ無いだろう」
すると、悠は俺の目を見たままコクりと首を縦に振ると、催眠について説明を始めた。
なんでも、亜美さんの所属する宇宙警察が所有する宇宙船には、現地人に見られた時や接触した時の隠蔽のために、催眠装置が装備されているらしく、今回それを使って俺の両親や友達に【悠は元から女の子、亜美はそのお姉ちゃん】と記憶を改竄したらしい。
悠が事故にあった時も、その装置を使って”海外留学”をしていると周囲の人間の記憶を操作していたようだ。
そして、何故か俺にはその催眠が効かなかったらしい。
「それで、母さんを始めとしたみんなが、悠が元から女の子だって言っていたのか…」
「うん……。ごめんね、智也。嘘ついちゃって…… 」
「気にするなって」
申し訳なさそうに謝ってくる悠に対し、俺は気にしていないという風に軽く笑いかけながら、頭をポンポンとすると悠は「えへへ~」と嬉しそうに笑顔を見せる。
俺は内心ではドキドキしながら行った、リア充にのみ許された“頭ポンポン”が成功して、内心ではガッツポーズをしていた。
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